ダラクソンラシブのニュースを見て、僕が今どう感じているか
最近、膵がん領域で ダラクソンラシブ(daraxonrasib / RMC-6236) が話題になっています。
膵がんは、長い間「治すのが難しいがん」の代表のように扱われてきました。特にKRAS変異を持つ膵がんは、これまで有効な分子標的薬がほとんどなく、FOLFIRINOXやGnPなどの殺細胞抗がん剤でどこまで抑えられるか、という世界でした。
でも、今は明らかに空気が変わり始めています。
ダラクソンラシブは、RAS変異を標的にする新しいタイプの薬で、進行膵がんに対する第3相試験で、標準化学療法と比べて全生存期間を大きく改善したと報告されています。報道では、中央値OSが 13.2か月 vs 6.7か月 とされ、膵がん治療にとってかなり大きなニュースです。
もちろん、これだけで「膵がんが完全に治る時代が来た」と言うつもりはありません。
でも僕は、これは単なる延命薬のニュースではなく、膵がん治療が“平均で諦める時代”から、“分子レベルで制御する時代”へ移り始めたサインだと思っています。
僕自身も、KRAS G12DとTP53変異を持つ膵がんでした。
最初は、まさに「膵がんだから厳しい」という世界の中にいました。
でも、治療を続けながら、画像、腫瘍マーカー、cfDNAを見続けていく中で、あることがはっきりしてきました。
がんは“病名”ではなく、状態です。
増えているのか。
消えているのか。
同じクローンが残っているのか。
それとも、もう検出できないのか。
ここを見ないまま、平均統計だけで「まだ危ない」「まだ続けるべき」と判断してしまうと、患者はエンドレス抗がん剤の世界から抜け出せません。
僕の場合、最新の画像では原発巣は指摘されず、転移も見えず、半年以上増悪はありません。
さらに高感度cfDNAでも、元の主クローンである KRAS G12D / TP53 は検出されていません。
一方で、ごく低濃度の変異が出たり消えたりすることはあります。
でも、それは体温で言えば36度台の揺らぎのようなものです。
遺伝子変異と聞くと怖く感じます。
でも、生命活動の中では、細胞は毎日入れ替わり、DNAコピーの微小な揺らぎも起きています。高感度cfDNAは、がんだけでなく、そうした生命活動レベルの微細な揺らぎまで拾います。
大事なのは、そこに「増える構造」があるかどうかです。
同じ変異が固定される。
量が増える。
画像と一致する。
元の主クローンが戻る。
そうでなければ、それは再発ではなく、揺らぎとして読むべきです。
僕は、膵がん治療の未来はここにあると思っています。
平均ではなく、個別の状態を見る。
マーカーだけではなく、画像とcfDNAで見る。
治療を続けるかどうかも、恐怖ではなく観測で決める。
そして、ダラクソンラシブのようなRAS標的薬が実用化に近づいていることは、ここに大きな意味を持ちます。
これまでは、KRAS変異があっても「狙えない」とされてきました。
でも今は違う。
RASを狙う薬が現実に出てきている。
しかも膵がんで結果が出始めている。
Revolution Medicinesは、ダラクソンラシブをRAS変異固形がんに対する新しいクラスのRAS(ON)阻害薬として開発しており、膵がんは主要対象の一つです。
これは、僕にとって本当に大きな希望です。
今、膵がんと向き合っている人に伝えたいのは、
「絶対に大丈夫」という無責任な言葉ではありません。
でも、こうは言いたい。
膵がんは、もう“何をしても無理”という時代ではなくなりつつある。
分子標的薬が出てきた。
cfDNAで状態を追えるようになった。
画像だけでは見えなかった変化を、分子レベルで観測できるようになった。
そして、治療を“続けるかやめるか”も、平均ではなく個別データで考えられるようになってきた。
僕は、自分の体でそれを見ています。
まだ医学の言葉では「寛解」と呼ぶのかもしれません。
でも僕の中では、もっとはっきりしています。
元のがんクローンは、画像でもcfDNAでも見えていない。
半年以上、増悪していない。
強い殺細胞抗がん剤なしでも崩れていない。
これは、少なくとも僕にとっては、
「がんががんとして成立していない状態」です。
そして、ダラクソンラシブのような薬が広がれば、
この状態にたどり着ける人は、これからもっと増えると思っています。
膵がん治療は、もうすぐ変わる。
本当に、もうすぐだと思う。
だから今、治療中の人にも、家族にも、伝えたい。
平均だけで未来を決めないでほしい。
観測できるものを見てほしい。
自分の状態を見てほしい。
膵がんにも、出口はある。
少なくとも僕は、そう信じられるところまで来ました。