過去日記⑦です。
一人旅に出た私は、エスファハーンから夕方の列車に乗って、灼熱の砂漠都市ヤズドという街にやって来た。
イランでは、それほどボッタクリが多い方ではないのだが、タクシーは別。
テヘランでは、自分も含め、旅慣れた旅行者もまた値段交渉に四苦八苦し、最終的には少し多めに払わざるを得なかった。
それはここヤズドでも同じだった。
選択肢が他にないので、完全に足元を見られた格好で、仕方なく少し高めの金額となった。
といっても、ここは産油国イラン。
鉄道や長距離バスは驚くほど安く、それに比べタクシーは割高だが、それにしたって我々にはかなり安い値段で利用出来るのだ。
私はヤズドの旧市街にある金曜モスクの近くでタクシーを降り、暗闇の中、宿を捜し歩いた。
まずは、有名なシルクロードホテルをチェックした。
中庭が綺麗で、それなりに旅行者も利用していて雰囲気は良かった。
しかし、見せてもらったドミトリーがイマイチで、部屋を見せてくれたマネージャーらしき若い男の態度が横柄だったので、ひとまず断った。
断ったときの態度もまた悪かったものだ・・・
この宿は、各種ガイドブックに載っていて、ヤズドの安宿である。
がしかし、テヘランの安宿の情報ノートには、スタッフ絡みの金銭の盗難事件が何件か発生した、ということが書かれていて、個人的に警戒していた。
次に、人気がなく迷路のような真っ暗な旧市街を、7分ほど少々恐る恐る歩いてコハーンホテルという宿に入った。
対応してくれた女性が親切で、見せてもらったドミトリーはまずまずで、しかも一人で独占出来ることもあり、この宿に即決した。
やはり、他の旅行者から聞いた情報通りの良宿であった。
コハーンホテルは、新しいので確かに宿泊者は少なかったが、雰囲気が良くお勧めだ。
屋上からは、砂漠都市の景色や旧市街、金曜モスクも眺めることが出来た。
そして、、一夜明け
私はアレを見ることになる。
私は、約束の場所まで静かな旧市街を歩いていた。
暑さと灼熱の風のせいか、少々道に迷ってしまった。
約束の時間が気になるのだが、あいにく腕時計が止まってしまっていた。
今何時だろうと、ちょうど考えていたところ
つながれたラクダの隣に、やせた老人がぽつんと座っているのが私の目に入った。
「あの、、すみません、今何時でしょうか?」
かたことで話しかけると、老人は鋭い眼光をこちらに向け、少々ドキッとした。
そして、何を思ったのか
年月が刻まれた繊細な手を、おもむろにラクダの股間にもっていき、
そのオスとわかるラクダの大きなナニをつかんで静かに持ち上げ、口を開いた。
「3時14分」
「え?!、、あ、ありがとうございます・・・」
私は老人の謎の動作にあっけにとられると同時に、その神秘的な光景に圧倒されたのだった。
生きとし生けるものへの慈しみ。
古代より受け継がれてきた、神への敬けんな祈りさえ感じ、正直胸が熱くなった。
町は迷路のようになっていた。
私はさんざん歩きまわって、気がつけばまたさっきのラクダと老人の前に出てしまった。
私はもう一度、時間を尋ねることにした。
また同じ儀式をするのか、好奇心があったのだ。
「すみません・・・。今何時でしょうか」
再び聞くと、老人はまた鋭い目で私を見つめ、神聖なる儀式のように、ラクダのナニをつかんで持ち上げ、こう言った。
「4時48分」
すごい!私はついに我慢できなくなり、おそるおそる尋ねてみる事にした。
「差し支えなければ、その儀式の意味をお聞きしてよろしいでしょうか」
すると老人は鋭い眼光をこちらに向けてこう言った。
「ほう、知りたいかね、旅のお方」
「はい。どうしても知りたいんです」
「こうするとじゃな」
老人は、ラクダのナニを持ち上げると言った。
「向こうに置いてある時計が見えるんじゃよ」
