しかし、今考えてみると、当時はこの書の内容を、全然理解できていなかったようです。理解できていなかったというより、経験的に実感できていなかった、というのが正しいか。まだ学生であった私は、生産がどうの、納期がどうのと言われても、全く興味がなくどうでもよかった。「しらんがな」という感じであった。就職してからも最初に勤務したのは商社で、もちろんメーカーとのやりとりでは、生産にも触れることはあるが、最重要事項は”いかにメーカー様に好かれるか”、とか、”いかにマージンを抜けるか”、しか考えていなかった。したがって、このような生産に纏わる問題は本当にどうでもよかった。
ところが、商社を辞め、メーカーでマーケティングの仕事をしている現在、再度この書を読んでみたところ、受け取る印象と、受け取る情報量が以前とはまるで違うということを実感した。本書を読み進める中、「これはまさに我が社で起こっている問題に置き換えられる」、と思うことがいたるところであった。残念なことに、私はマーケティング部門でああるため、生産プロセスの改善に直接的に携わることはできないが、ロジスティクス、組織の運営、個人の仕事の進め方等にもこの考え方を展開をすることができると思う。
以下、本書の”私なりの理解”による概要を示す。
まず、最初に行うべきことは、”正しい目標”の設定である。
企業(工場)の目標とは何か、それは生産性を向上させることでも、納期を縮めることでもなく、本書では”お金を儲けることである”としている。はあ?なにを当然のことを言うとんねん、あたりまえやろボケー、と言いたくなるところかもしれないが、目標を一意に決定し、ブレさせないということは非常に重要である。
目標は基本的には一つでなければならない。その他の事項、例えば客の要望納期通りに商品を届けること、或いはコスト最小で生産を行うこと、等々はあくまでその目標を達成するための手段でしかなく、目標ではない。いや、やはりそれらも目標に入れてもいいじゃないか、という意見もあるかもしれないが、目標が複数存在すれば、お互いにトレードオフの関係となってしまったり、またそれぞれの目標を最適化しようと試みた結果、局所最適解に陥る可能性が高くなってしまう。従って、全体の目的として目的は一つでなければならない。さらにその目標は組織全体の目標に従ってなければならない。
”お金を儲ける”という目標を達成する為の、評価指標:
メーカーにとって、お金を儲けるということの指標を3つ挙げている。
1:スループット
販売を通じてお金を作り出す割合(生産を通じてではない)。
- 入ってくるお金
2:在庫
販売しようとする物を購入するために投資したすべてのお金のこと。
- 現在製造プロセスの中にたまっているお金。
3:業務費用
在庫をスループットにカエルために費やすお金のこと。
- スループットを実現する為に支払わなければならないお金。
お金を儲けるのは、1、スループットを増大させ、2、在庫を減らし、3、業務費用を削減することで達成できる。本書ではこれらの中で”1、スループットの増大”が最重要テーマであるとしている。また、本書で提唱する業務改善プロセスを用いれば、1 ~ 3 を同時に実現することは可能だが、マーケットの変化による需要の減少などのため、スループットが減少したからといって、業務費用を削減させてはならないとしている。業務費用(労働力)を減少させれば、生産能力が落ち、仕掛り在庫が増え、結果スループットのさらなる減少に繋がるからである。
さて、目標を正しく設定し、評価指標を決めたら、早速業務改善プロセスに取りかかる。
まず、生産行程の中で、ボトルネックを探し出す。もちろん、生産管理の担当者は綿密な計算のもと、ボトルネックを生じさせないように生産行程を作っている。にも関わらずボトルネックは生じてしまう。これは、生産行程が”依存的事象””統計的変動”によって、設計者の計画通りに生産が進まないからである。
依存的事象とは、Bの行程では余剰生産能力があるにも関わらず、Aの行程が終わらないため部品がBに流れてこず、Bでは作業ができない、というような周囲の環境或いは条件に依存して発生する問題であり、統計的変動というのは、Bの行程では1時間平均5個の作業ができる、としていても実際は午前中は1時間に7個処理できたが、午後は3個しか処理できていない、というようなバラツキが生じるという問題である。
生産ラインの中でボトルネックを見つけるには、全てのラインをチェックし、最も多くの仕掛りが継続的にその行程の前に溜まっている場所を探す。見つかればそればボトルネックである可能性が高い。ボトルネックは一つの場合もあれば、複数ある場合もある。
ボトルネックを発見すれば、次にするのはボトルネックの生産能力を増やす、ということである。ボトルネックの生産能力を増やすことで、ボトルネックを広げてやる。あるいは、ボトルネックの仕事を外注に任せられるならば、外注に出す。また、もし不良品を検出する品質検査行程がボトルネックの後にある場合は、ボトルネックの前に持ってくる。不良品となる部品がボトルネックを通る前に、弾いてやることで、ボトルネックの負荷が下がるためである。
ここで、外注に出したり、ボトルネックを広げるためにコストが増大することが予想されるが、ここで生じるコストを他の行程で生じるコストと同じ土俵で考えてはならない。ボトルネックによって(ボトルネックが稼働しないことで)生じるコストは、他の行程で生じるコストとは全く異質で、それは工場全体が1時間止まった場合のコストと同等である。つまり、仮に最終製品の価値として工場全体で1時間あたりに生産される量が10,000ドルであったとする。すると、ボトルネックで失った1時間はちょうど10,000ドルに相当するということである。ボトルネックが工場全体の生産能力を決定するからだ。
ボトルネックを広げる、あるいは負荷を減らしてやるだけで、工場全体の生産能力はかなり増大させることができる。つまりより多くの完成品が工場から出荷され、”スループットの増大”を達成することができる。
ボトルネックを広げて、スループットの増大を行うことができれば、次は、ボトルネックに部品がタイムリーに届くよう、部品の到着時間を予測し、それをもとに資材配給を行う。ボトルネックの前ではボトルネックでの作業に穴が空かない程度の仕掛り在庫が常にあるようにする。これにより、ボトルネック以外での仕掛り在庫がなくなるはずである。つまり工場全体としての在庫削減に繋がる。ここで注意しなければならないのは、ボトルネック以外の非ボトルネックで余剰生産能力が生じたからといって、そこに資材を注ぎ込んで作業をさせてはならないということである。在庫を増大させるだけで、生産性の向上には繋がらないからである。
ボトルネックを中心とした生産計画を立てることで、スループットに繋がる製品のみを生産することができ(非ボトルネックで余分に生産する場合は、仕掛り品の増大、余剰在庫につながる)、また、納期(生産リードタイム)を大幅に改善することができる。
非ボトルネックではかならず余剰生産能力が発生してしまう。つまり、労働者がなにも作業をすることのない、アイドリング時間が発生してしまう。が、ボトルネック以外であれば、これは容認するべきである。ここで余剰生産能力を発生させないために、人員削減などで業務費用削減を行えば、その非ボトルネックであったラインが新たにボトルネック化してしまう可能性がある。
以上により、工場における生産プロセス改善プログラムは凡そ完了である。
STEP1: ボトルネックを見つける
STEP2: ボトルネックをどう活用するか決める
STEP3: 他の全てをステップ2の決定に従わせる
STEP4: ボトルネックの能力を高める
STEP5: ステップ4でボトルネックが解消したら、STEP1に戻る。
ところが、工場での生産プロセスにおいて、改善が行われれば、今度は工場外で新たなボトルネックが生じる可能性がある。工場では十分な生産能力、納期が確保できたにも関わらず、スループットが上がらない、つまり生産すべき注文が無い、等の場合である。このような場合、市場の変化、競合の動き等様々な要因が原因として考えられるが、これをボトルネックと呼ぶのは違和感があるため、これらの問題を大局的にとらえて、下記のように書き換えることができる。
STEP1: 制約条件を見つける
STEP2: 制約条件をどう活用するか決める
STEP3: 他の全てをステップ2の決定に従わせる
STEP4: 制約条件の能力を高める
STEP5: ここまでのステップで制約条件が解消したら、STEP1に戻る。ただし、惰性を原因とする制約条件を発生させてはならない。
これにより、工場内の問題だけでなく、組織全体の問題として捉えることができるようになった。また、冒頭で述べた通り、製造業においてのみではなく、非製造業、非営利団体或いは個人の業務、その他組織の運営において様々なシーンで問題の解決に役立てることができるであろう。
上記は、本書で紹介された手法の一部を要約したに過ぎませんが、これに興味を持たれた方は、是非一度本書を手に取って読まれることをお勧めいたします。
- ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か/ダイヤモンド社
- ¥1,680
- Amazon.co.jp
- ザ・ゴール [ エリヤフ・M.ゴールドラット ]
- ¥1,680
- 楽天
- ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス/ダイヤモンド社
- ¥1,680
- Amazon.co.jp
- ザ・ゴール(2) [ エリヤフ・M.ゴールドラット ]
- ¥1,680
- 楽天
