今回はビートルズのアルバム”Rubber Soul”です。この作品は1965年にリリースされたアルバムで、ビートルズが大麻等による影響もあり、芸術的な作風へシフトする切っ掛けとなった名盤です。本作はUK版の他、内容違いのUS版も存在していますが、今回は現行のCDと同じUK版について御紹介致します。


本作はステレオ盤とモノラル盤の両方が制作されましたが、時代柄モノラル盤の方がより自然な音です。現行のCD等では主にボーカルと楽器類とで左右にパックリ分かれたミックスのステレオ盤しか聴く事が出来ない点はビートルズの魅力が半減してしまっており、非常に残念でなりません。本来であればモノラルバージョンも聴くべきなのであります。

※現行のステレオ音源は80年代後半にビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンがリミックスを行ったものですが、不自然なミックスは基本的にそのままであり、根本的な解決には至っておりません。


そんなモノラル盤ですが、UK盤の初版にはバリエーションが存在します。とりわけ有名なのが、マトリクスが-1のラウドカット盤とマトリクスが-4の通常盤です。当初マトリクス-1のものが作られたものの、低音域が強すぎて針飛びを起こす恐れがある事が判明したため、早々に製造が中止され、カッティングの修正が行われたマトリクス-4のものに切り替えられたとされております。因みに、-2や-3のものはカッティングに失敗したのか存在しておりません。従って、正規の初回マトリクスは-4となる訳です。-1の盤はいわば不良品ですから本来ならば全て回収して-4の盤を作り直すべきだったのですが、レコードの製造枚数を稼ぐため、既にプレスされてしまっていた一部の盤もそのまま製品として出荷されました。こうして世に出回ったマトリクス-1の盤は今日では音圧が通常よりも高いラウドカット盤として垂涎の的となっているのです。


僕はこれまで-1のラウドカット盤しか所有してなかったため、本当にラウドカットなのか確かめる手立てがありませんでした。そんな中、此の度マトリクス-4の盤を入手する事が出来ましたので聴き比べを行ってみました。

※あくまでも個人的な感想になります。盤の個体差や再生環境、その日の体調等によって感覚は異なる可能性は否定し切れませんのでご了承願います。


今回入手した盤は-1のものと似たコンディション(つまり、ノイズが殆ど出ない良好なもの)です。ノイズばかり入る状態ですと比較になりませんので、成る可く良好なものを探しました。


全体的な感想としまして、マトリクス-1ラウドカット盤は噂通り兎に角音がでかいと云う事が分かりました。アンプを同じボリュームにして聴き比べても明らかに-1の方が音量が大きいのです。特に低音域が強く出ており、非常に荒々しい音です。マトリクス-4は確かに低音域こそ抑えられており、幾分大人しい印象を受けた(決して低音域が弱い訳ではなく、適切なバランスとなっている)ものの、可成りクリアな音質になっている事が分かります。-1の荒々しい音はこれはこれでロックらしさが出ており素晴らしいのですが、全体的な音量のバランスやボーカルの綺麗さで云いますと-4に軍配が上がります。A7 “Michelle”の歪みを殆ど感じないクリアな音質は特筆すべき点でしょう。一方の-1は荒々しさこそ素晴らしいのですが、全体的に濁った音質になってしまっていると感じます。A7 “Michelle”はやや歪んで聴こえます。音量バランスが取れており、音質に優れる-4と爆音で全体的に音が潰れ気味の-1、こう云った所でしょうか。今回この2枚を聴き比べて、早々にカッティングがやり直されたのに納得しました。-1のものははっきり云ってボーカルの音質が潰れ気味なのです。


同じUK盤でもここまで音質に違いが出るとは正直思いませんでした。これだからレコードは面白いのです。


両面共にマトリクスが-4の”Rubber Soul”。僕は所有しておりませんが、中には-1と-4の組み合わせと云うハイブリッド盤も存在している模様です。いかにレコードの製造枚数を稼ぎたかったのかが分かります。


ジャケット裏面。ジャケットはG&L社製で、僕が所有している-1のものと全く同じ仕様です。状態も概ね良好。


当時のスリーブも付属。折り目が付いてしまっているものの、全体的な状態は良好でしょう。


盤。レーベルの字体から恐らく66年に入ってからプレスされたものだと思われます。2枚の盤面をよく見比べてみますと、-4のものはA面、B面共に盤のより内周部まで音が刻まれている事が分かりました。つまり、-1のものは音が刻まれている範囲が狭い上、音量が大きくカッティングされた(つまり溝が通常よりも深くカッティングされた)結果、音が潰れてしまったと推測する事が出来る訳です。


マトリクス-1のラウドカット盤につきましては此方も参照して下さい。国内盤(ステレオ盤、2ndプレス)との比較記事です。