かつては東北地方に「冷夏」というのがよくあった…。

　八月にジージャン羽織って七日町の『セブンプラザ』にいった記憶がある。

下は夏っぽい柄のひらひらロングスカートだったかな・・・。

　しかし気象が変わって冷夏の原因オホーツク高気圧が出来てもほとんど影響しなくなり、冷夏は来なくなってしまった・・・。

　最後の冷夏は２０１４年、今から十年前・・・当時はまだ鈴川農協に直売所があり、八月半ばにそこにいくと小さくなったシシトウやトマトがあってわたしが

『みんな小さくなっちゃった・・・。』

というと、一緒に野菜を見ていた主婦が

『夏は終わりましたね。』

といったのを覚えている。

そして七日町のコーヒー屋さんに行くとコーヒー屋さんは

『夏が終わっちゃった・・・さびしい…』

といっていた・・・。その夏は七月に３６℃３７℃の日が二、三日あってホームセンターでは店員さんが

『サウナの中にいるみたい・・・。』

なんて言っていた・・・。
夕方近くを散歩すると、山大生の女の子たちが

「夏はなかったね。」

なんて話していた・・・。

そして、私がМ会館を辞めて外国に一人旅に出た年も東北地方は冷夏だった・・・。

梅雨寒の中、私は成田から飛び立った・・・。

吉祥寺で買った大きな黒いナイロンのボストンバックを持って…ジージャンにひらひらスカートなんて言う格好で…

一方ヨーロッパは冷涼の夏が普通でジージャン羽織ってもちょうどいい気候だった。

にしてもドイツのドイツのハイデルベルクで日本人の男の人を好きになり、そしてその人にカノジョかもしかしたら奥さんがいるんじゃないかと思うとそれが怖くなったりといろいろあったけど、タイのバンコクやらドイツやオーストリアやフランスあちこちで起きていたことってた基本的に山形の小白川や杉並の阿佐谷などで起きていたことと何一つ変わらなかった…。

　なのに私は準県職員の身分も捨てて職場も捨てて旅立ってしまったとは…帰国の路に着く私には虚しさとさびしさだけが残った・・・。

「これからどうするの・・・？」

秋風のなか、帰国した私に問いかけられたのはこの言葉だった。…父の先輩S谷さんの紹介してくれたМK沢さんや父の書斎に良く出入りしている大学教授中村睾作との縁談も断って…そしてさっさと一人で旅に出ちゃうなんてどうするつもりなの・・と言いたい気持知も無解るものだ…。

あてもなく繁華街七日町に行ってみる…。少しお嬢さんぽいワンピース着て・・・。同期の子たちは結婚して所帯をもってもう子供もいたりする…。なかには結婚してそしてご主人とパン屋さんをオープンさせた子もいた・・・

「いいな・・・わたしもパン屋さんになりたかった・・・。」

そう思ったものだ…。

秋本番の山寺立石寺の・・・ひなびた旅館・・・まったくとした時間が水車のようにゆっくりと流れている。

「旅館っていいね。ホテルじゃないから、何か『おかえりなさい』

って言ってくれている感じがある…」

とT野さんが笑顔でいう。その笑顔が可愛い。

「あたしたちどこに行ってもよく似ているって言われるね、」

と何かT野さんが嬉しそうにいう・・・私の心の中に喜びの灯がともる・・・。
私よりも１０歳年が上のT野さんだけど、実際の年齢よりも若く見える。もっとも当時２５歳の私だって中学生か高校生に見られることも多かった・・・。

「山寺ってほんとに子供の時に一度来ただけ…」

「私も・・・。」

ひなびた温泉旅館の室内が懐かしいインク色に染まる。なんか私が六歳まで過ごした山大前官舎に居た時みたい…。
私もT野さんもワンピース姿…気が付けば私とT野さんと手を繋いで旅館に入ってきていた・・・。

二人ともウエストのしまったダンガリークロスのロングワンピース・・・童心に帰るとはこのことを言うのだろう…見るものすべてが新鮮に感じられた・・・。
同じ同性だから好きになっても何も恐れることなく素直に好きな気持ちを受け入れられる…。わたしはT野さんが好きだった。

「私香織ちゃんのこと、好き・・・」

T野さんが私の胸に頭をうずめる…

「いいね・・・仲が良くて…。」

旅館のスタッフの女性が笑顔でいう。

「ごきょうだい？」

「ほんとはそうじゃないけど、よく似てるって言われるの。」

「よく似てますね・・・お二人とも綺麗で・・・。」

「やだ、ありがとう・・・。」

私たちのあの頃の心の扉が開く…。

「ね、女子って生理来る前と生理来てからじゃ全然違うよね・・・。」

「そうね・・・見るもの聞くもの全然違うように感じる…。」

初生理が来てから駆け足で女を生きてきた…。かれこれ初生理が来てから１０年以上経っていた…。生理が来る前の自分を置き去りにして・・・。

大人女子との、仲良し二人旅