幸恵さんに出会ったのは私がT女高を出て観光協会に勤めていた晩夏お盆明け...

駆け出しサーファーガールのつもりだった私は、アロハシャツに裾がフリンジのデニムショートパンツで浜辺の夏女気取りだった。

「ここに座っていい?」

と訪ねてくる女性がいる。こんがりとした小麦色の肌、ほっそりとした体つきに長い髪と鼻筋の通った端正な顔立ち、そして両手でつかめそうな細いウエストをしていた。

かわいらしいマゼンタピンクの提灯袖のポロシャツ、そして、私が中学二年の夏に穿いていたような濃紺サテンのゴムウエスト短パン...あまりというか全然サーファーガールっぽくない彼女は、私に

「貴女名前なんていうの?」

と優しく訪ねる。

「香織」

と生意気に応えると

「香織ちゃんか...」

途、にこりと笑う。

「香織ちゃんも、細ーっ

香織ちゃんも胃は小さいでしょ。私も胃は小さくて...あっという間にお腹一杯になっちゃって...

美味しくて食べちゃって気が付くと胃が苦しくて苦しくて吐いちゃって...」

と自分の胃の辺りを押さえて言う。

サーファーガール達が焚き火を囲み、新しい洋服やおしゃれな指輪、そして彼氏の悪口等の花が咲くなか、私と幸恵さん二人だけの世界が出来ていた。

実はこの幸恵さん、このビーチの伝説のサーファーボーイの元カノだったのだけど...。その日は幸恵さんといっしょにあちこちに行き、そして名月という大衆食堂ではんぺんのチーズはさみ揚げを二人で一人分の食べた。大衆食堂は量がおおいので一人分でも細身の女性二人には多すぎた。

「ああ苦しい、お腹パンパン...

香織ちゃんお腹大丈夫?お腹いっぱいだったら残してね。」

と幸恵さんは私を気遣ってくれる...そんな優しい幸恵さんだった...。

そしてその晩、幸恵さんのスズキ・アルトて当時世話になってきたSさん宅まで送ってもらった。

Sさんの奥さん、幸恵さんを見て、

「一瞬香織ちゃんかと思った。似ているね。」

と笑顔で言う。Sさん宅の茶の間には何ともまったりとした水を張ったような温もりと充実感があった。下小白川の文学者宅にはない温もり、団らんだった。Sさん宅の茶の間の温もり...遠い遠い過去を思い出させる抜いてだった。時刻は9時過ぎ、「香織ちゃん、明日仕事でしょ、もうお風呂入って寝なさい。」

「うん。」

「さっきの香織ちゃんと似ていたお姉さん。おともだち?」

「うん。」

「おともだち大事にしなさい、ね。」

「うん。」


ちなみにその頃山大裏下小白川の文学者宅では、糞文学者が
「アイツとは付き合わん!」
「アイツとは絶交だっ!」
と次々と古い付き合いを断っていった。
その一方で東京の出版編集者がやった来ては
糞文学者に
「先生の文章は普通の人には書けない文章ですよ。」
なんぞと変な事を言っていた。糞文学者の手掛けた本が山形市中心部の老舗大型書店「八文字屋」二も並んでいたし、O市の老舗書店大脳堂書店にも並んでいた。
「アイツとは付き合わん!」
と古くからの付き合いを断っていく糞文学者歯、かつてのように私たちの家族の一員としてうちのお父さん出はなくなってしまっていた...そう感じた。

一瞬幸恵さんは私を妹のように包み込み、そして深い深い愛de私を導いてくれた。私をワンピースが似合う女性に、導いてくれたのも幸恵さんだった。