毎日暑い💦

早く秋にならないかな...。


澄んだ空気がぴーんと張り詰め、宵にキラキラと星が輝き出す。


東京近郊の農地が残るなか、ブラウスにスカートで水野さんと待ち合わせる。

「あ、香織ちゃん、待った?」

水野さんはフリルのついたブラウスにヒラヒラのロングスカート、クラシックコンサートにお似合いの服装だ。

コンサートが終わったあと、端正な顔立ちセミロングヘアの水野さんはコーヒーを飲みながらこう打ち明けた。

「四国のタカちゃんから手紙が来てね...。なんだかM沢さんに殴られているみたいなの...。」

と水野さんは心配そうに言う。あたりの空気がなんか急に深刻になる。

「あの人(M沢)、すぐ切れそうだし、手をあげるだろうね。」

「うん、それで一度行ってみようと思うの。」

「えっ!四国に...。」

「うん。」

「でも...心配だし、タカちゃんには頼る人って、私くらいしか居ないから...。」

「そう...。」

こうして水野さんは四国の高松までタカちゃんに会いに行った。


タカちゃんは旦那のM沢の目を盗んで駅ビルの中のドトールまでやって来た。

「そんなにひどいの...」

最初は新しい仕事をしようと張り切ってきたM沢とタカちゃんはだったが、仕事は頓挫、そのうちM沢は仕事もせずにパチンコに通っては何かあるとすぐにタカちゃんたち(M沢とタカちゃんとの間の娘さん)に当たるようになった。

M沢とタカちゃんには四国でも友達も出来ずに孤立するかな、多額の立ち退き補償金を受け取っては贅沢三昧のM沢だが例のギャンブル癖でその補償金の蓄えもどのくらいあるのかわからない...

そんななか、藁にもすがる思いでタカちゃんは水野さんに手紙を書いたのだ。


「そんなにひどいの...。」

「うん...。」

「とりあえず、あの家、出なっ。あつちゃん(娘)と二人で...。」

「うん。」

「したぎとか最低限の荷物は宅急便とかでうちに送りな。そして役所に行って二人分の住民票抜いて置きな。」

「うん。」

「それから航空券手配して 二人でM沢さんに気が付かれないように、こっち(羽田)に来な...。今月中に、ね。」

「うん。」

「それからこれ...。私との連絡用のケータイ、M沢さんには絶対に見付からないようにね。」

そして水野さんは飛行機で高松から羽田へと戻った。

間も無く、四国のタカちゃんから役所に言って二人分の住民票抜いて、そしてその足で二人分の羽根田までの航空券を手配したという知らせがケータイに入った。

間も無く羽田につくという。

水野さんは羽田に出向いて二人を待ち受けた...。

まだ朝早い。飛行機は高松から羽田まであっという間に着いてしまう...、

朝の羽田空港と到着ゲート、タカちゃんとあっちゃん二人を待つ水野さんの視界に、重い荷物を持つ二人が入った、

パアッと明るくなった。

「あっタカちゃん!」

思わず手を振る水野さん...。

「水野さん...」

タカちゃんを目を輝かせて水野さんに手を振る。「たいへんだったね...。」

「ありがとう。」

「そんなにお金持っていないでしょ。」

「うん。」

「じゃ、とりあえずうちに来る?今晩はうちに泊まったら。」

「ありがとう。」

こうして

タカちゃんとあっちゃんは一晩水野さんの家に止まり、その翌日新潟の実家へと向かった。

なんとか新潟でもちいさな仕事が見付かったという。


しかしその後、例によって一人残られたM沢がボロボロになって新潟までやって来た。そして頭を下げて

「今まで悪かった、謝る。戻ってきてほしい、」

と涙ながらに訴えたという。

心が揺れるタカちゃんとあっちゃん..

しかし水野さんは、M沢さんがギャンブル癖があることを思いだし、もうM沢さんの許には戻らないようにと忠告した。

「折角貴女は達がつかみかけた幸福への切符でしょ、それをまた手放すことはないじゃないの、M沢さんは貴女たちを幸せにする責任があったのにそれを放棄した人なのよ。もう信用しちゃダメ。」

そう水野さんはタカちゃんたちに忠告した。

「もう、貴方とは関わりたくない...」

とタカちゃんはっきりとM沢さんに告げた。

そしてタカちゃんあっちゃんたちにもすこしづつ友達が出来て、あっちゃんには恋人もできた。

そんな頃、四国の役所からタカちゃんのところに連絡があった。

M沢さんが、末期がんだという。


結局、タカちゃんとあっちゃん、そして水野さんが、午後の病棟で痩せほそってそして黄色い顔のM沢さんと面会した。その後、病院のラウンジで水野さんには一言、タカちゃんに

「あの結婚、失敗だったわね。」

と話した。タカちゃんは無言で頷いた。


M沢さんの亡骸はM沢さんがこの町に建てた戸建ての家に運ばれてきた。水野さんが役所への届けなどを済ませてそして荼毘に服した。あとは誰も来なかった。

「相続放棄した方がいいよ、あの人ギャンブル癖があったから...」

「うん...。」

結局、M沢さんの遺骨はタカちゃんが新潟まで持ち帰るしかなかった。

ちなみにM沢さんがかつて得意になって乗り回していた白い大きな外車は、もう故障続きで四国から引き上げてくるのにも乗って来れない代物になっていた。


タカちゃん、実は私によく間違えられるほど私とよく似た女の子だった。私は、タカちゃんと表参道の「生活の木」にいってはばら精油を買って、そして、二人で半分こにして分けた思いでがある。私もタカちゃんも髪を長く伸ばして、そして同じワンピースを来ては下北沢辺りを歩いた思い出がある、


そんなわたしたちの仲を引き裂いてしまったのがM沢さんなのだけど...。