数ヶ月が過ぎ、拓也は少しずつ心の平穏を取り戻しつつあった。カメラを手に取ることはなかったが、彼の生活は日常に戻りつつあった。しかし、夜になると時折、あのレンズのことが頭をよぎり、眠れない夜を過ごすことがあった。



ある日、友人の美香が訪ねてきた。彼女は心霊写真の専門家であり、その後もレンズにまつわる調査を続けていた。



「拓也、この前のレンズのことなんだけど、もっと詳しく調べてみたの。」



美香が持ってきた資料には、あのレンズに関するさらに恐ろしい事実が記されていた。レンズの元の所有者である写真家は、そのレンズを使って自分自身の魂を写し取り、不滅の存在になろうと試みていたという。しかし、その試みは失敗し、彼の魂はレンズに閉じ込められたままとなった。そして、その怨念は、レンズを手にした者に取り憑く形で現れ続けていたのだ。



「でも、住職が供養してくれたんだろ?もう安全なんじゃないか?」



「そう思ったんだけど、どうやらそのレンズの怨念は一度供養されても完全には消えないみたい。魂が解放されるまで、持ち主を変えながら影響を及ぼし続けるんだって。」



拓也は震えながら話を聞いていた。すると、美香は真剣な表情で続けた。



「だから、もう一度供養する必要がある。しかも、今回はレンズをただ清めるだけじゃなく、魂を解放する儀式が必要になるの。」



二人は再び寺を訪れ、住職に事情を説明した。住職は神妙な面持ちで頷き、特別な儀式を行うことを約束した。儀式の日、寺には厳粛な空気が漂っていた。住職はレンズを持ち、経を唱え始めた。蝋燭の炎が揺れ、静寂の中で儀式は進んでいった。



突然、寺の中が寒気に包まれ、異様な気配が漂い始めた。レンズから薄い霧のようなものが立ち上り、人の形を成していった。その影はやがて、レンズの元の所有者と思われる姿となり、苦しそうに呻き声を上げた。



「私の魂を解放してくれ…」



住職は経を唱え続け、最終的にはその霊を成仏させることに成功した。レンズは黒く焦げ、もはや使い物にはならなかったが、その呪いは完全に解けたのだった。



儀式が終わり、住職は深いため息をついた。



「これで、彼の魂は安らかに眠ることができるでしょう。もうこのレンズは二度と怨念を呼び起こすことはありません。」



拓也は深くお辞儀をし、感謝の言葉を述べた。その夜、彼は久しぶりに安眠することができた。



数日後、拓也は美香と共にカメラを手に取ることにした。恐怖を克服し、再び彼の情熱を取り戻すために。新しいレンズで撮った最初の写真には、青空の下で微笑む美香の姿が鮮明に写し出されていた。心霊現象の影はもうどこにもなく、彼のカメラは再び、彼の心を写し出す道具となった。



こうして拓也は、過去の恐怖を乗り越え、再びカメラへの情熱を燃やすことができた。彼の写真には新たな輝きが宿り、彼自身もまた、成長と共に新しい一歩を踏み出したのだった。