主人公のタクヤは、東京の片隅にある古びたアパートに住んでいた。彼の部屋は小さくて狭いが、唯一の贅沢であるパソコンデスクにはこだわりがあった。タクヤはフリーランスのウェブデザイナーとして働いており、生活はギリギリの状態だったが、彼の仕事道具であるパソコンとその周辺機器は彼にとって命の次に大事なものだった。
ある日、タクヤのキーボードが突然壊れてしまった。キーを押しても反応がなくなり、仕事が全く進まない。タクヤは絶望した。新しいキーボードを買うお金もなく、どうしようもない状況だった。彼は、毎日の仕事ができなくなることに焦りを感じつつも、なんとか解決策を見つけなければならなかった。
「リサイクルショップで安くキーボードを買うしかないか…」タクヤは思い切って家を出て、近くのリサイクルショップに向かった。そこは、古びた家具や家電、様々な雑貨が並ぶ、まるで宝探しのような場所だった。彼は店内を歩き回り、キーボードのコーナーにたどり着いた。
「これだ!」タクヤの目に留まったのは、少し古めかしいデザインのキーボードだった。値段は非常に安く、彼の予算内に収まるものだった。試しにキーを押してみると、心地よいクリック音が響き渡り、タクヤはこれが使えると直感した。彼はそのキーボードを購入し、急いで家に帰った。
家に戻ったタクヤは、新しいキーボードをパソコンに接続し、早速仕事に取り掛かった。驚いたことに、このキーボードは非常に使いやすく、キーの感触が抜群だった。タクヤは久しぶりに仕事がスムーズに進む感覚を味わい、心底嬉しかった。
数日後、タクヤは偶然にも友人のケンジにこのキーボードのことを話した。ケンジはキーボードに詳しいオタクで、タクヤの話を聞くとすぐに興味を示した。
「どんなキーボードか見せてくれよ!」ケンジが訪問してきた日、タクヤは新しいキーボードを見せた。ケンジは一目見るなり驚いた顔をした。
「これは…まさか…」ケンジは興奮した様子で続けた。「これ、伝説のIBM Model Mじゃないか!すごいレアものだぞ!」
タクヤは驚きとともに喜びが込み上げてきた。ケンジの説明によると、IBM Model Mは1980年代に製造された名機で、その独特のキーの感触と耐久性から、今でも多くのキーボード愛好家に愛されているという。特に、未だに動作するものは非常に貴重で高値がつくこともあるというのだ。
「このキーボード、一体いくらするんだ?」タクヤが尋ねると、ケンジは笑顔で答えた。「状態によるけど、少なくとも数万円、良ければ数十万円することもあるぞ。」
タクヤは信じられない思いだった。リサイクルショップで数百円で購入したキーボードが、そんなに価値のあるものだったなんて。彼はそのキーボードを大切に使い続けることを決心した。生活はまだ厳しいままだが、タクヤは貴重なキーボードのおかげで、少しだけ未来に希望を持つことができたのだった。
その後、タクヤはキーボードの魅力に取り憑かれ、自分でもキーボードの修理や改造を始めるようになった。仕事の合間にキーボードのメンテナンスをすることが彼の新たな趣味となり、次第に同じ趣味を持つ仲間とも出会うようになった。
タクヤは、この偶然の出会いが自分の人生を少しずつ豊かにしていくことを感じながら、日々を過ごしていった。