群馬県 某車用品店
「お疲れ~。」
「おう、お疲れ~。」
店員達が次々と言葉を発していく。
裕也が働く車用品店の電気が消え、シャッターが降りる。
そして、裏口から裕也が飛び出てくる。
裕也はそのまま、店員専用駐車場に直行したが、自分の愛車の前に一人の男が居ることに気づいた。
「おっす。」
「なんだ~、お迎えか~?」
「冷てぇヤツだなぁ、埼玉から来たんだぜ?」
「県境近くに住んでんだから説得力がねぇぞ~。」
ハハハと笑いながら、裕也は愛車のGC8インプレッサ(以下インプ)に乗り込んだ。
裕也を待っていた昇もS15シルビア(以下S15)に乗り込み、天満峠へと向かった。
裕也、昇はふもとの方の駐車場に来ていた。
「ふぅ、今日も居るな~。」
「ああ、っとぉ?何だ、あのHCR32は?」
昇が赤いHCR32(以下R32)を指差す。ここら辺では、あまり見ないクルマだった。
「新入りか遠征者だよな。」
「あっ、コッチに向かってきたぞ~。」
R32のドライバーと思われる人物が、裕也と昇の前で立ち止まる。そして、昇に尋ねた。
「アナタですか?『ブルーライン』の立川 昇さんって言うのは?」
「ああ、そうだ。だが珍しいな…俺のコトを通り名で呼ぶなんて。」
昇が驚いた様に言う。
「で、昇のヤツに何か用なんですか?」
「ええ、ヒルクライムでバトルを申し込もうと思って。」
なんと唐突にもR32のドライバーが昇にバトルの挑戦状を突きつけて来た。
だが昇は了承し、スタートラインにクルマを着けた。
「ボクは『澤田 剛(さわだ ごう)』です。」
「俺は立川 昇だ。」
2人は軽く自己紹介を済ますとクルマへと戻っていった。
「裕也!スターター頼む!」
「やだ。」
S15から昇が裕也に叫ぶが、裕也はあっさり拒否する。
その理由はと言うと…。
『オレも付いて行くから。』
……まぁ、そんなワケでインプもスタートラインに着いた。
「HCR32 GTS-t」 V,S 「S15シルビア」 V,S 「GC8インプレッサ」
「カウント行くぞぉーッ!5,4,3,2,1,GO!」
スターターがカウントを終えた。
「よしっ!」
絶妙なクラッチミートでS15が飛び出す。昇、会心のスタート。
「あ、ちょっと待て~ッ!」
昇に少し遅れて裕也もスタート、黄色いインプのボディが一気に加速する。
「は、速ッ!」
昇、裕也に引き続き剛のR32もスタートした。
3台は、S15、GC8、32sの順番で第1コーナーに突入した。
3台とも緩いコーナーをアウト・イン・アウトで綺麗に抜けて行った。
そして、目の前に広がる長いストレート、S15はパワーに物を言わせ、更なる加速をした。
「良いねぇッ!このドンッって来る加速感ッ!」
ホイールスピンをかましながら、S15は加速し続けた。タイヤからは白煙が上がっている。
「あ~あ、ムチャしすぎだぜ、昇~。」
「クッ、速い…。」
後ろの2台を置いていくS15。ココまで加速すれば上等、後は連続するコーナーを抜けていくだけ。
だが、ロングノーズの為、コーナーは苦手となっている。
しかし昇は、お得意の確実なグリップ走行で後ろの2台のマージンを増やして行った。
「新参者には悪いがコースに飛び出せば全開で行くしかない。2台まとめてチギらさせてもらうッ!」
S15は峠を駆け抜けていった。
「あぁ、もう見えねぇ。」
裕也がインプの中で呟く。今さっきまで、かすかに見えていたテールが無くなった。
裕也はステアを切り替えし、素早いドリフトでコーナーを駆け抜けていく。
「あのR32がどんなヤツかは知らないが、ココの走り屋として負けるワケには行かねぇよな。」
裕也はアクセルを更に踏み込んだ。R32との距離がジワジワと離れていく。
そのまま、峠を駆け抜けた。
「クソ…ダメか…。」
剛は2人に追いすがるのを断念した。
一番に頂上に着いた昇がコーヒーを飲みながら、インプとR32の到着を待った。
「おっ、EJの音…5秒遅れてRB。」
昇が宣言した様に、インプが到着し、5秒遅れてR32が到着した。
裕也がインプから降りて、剛に近づき一言。
「大丈夫?」
と言い放った。剛は「ええ、何とか。」と言葉を返し、R32のリアに回った。
「どうしたんだ?」と昇は裕也に聞いた。
「ああ、途中でスピンしてケツをブツケたらしいんだよ。」
「…そりゃー…気の毒だな。」
昇もヒョイっとR32のリアに回りこみ、色々と見る。
R32のRバンパーは傷だらけでテールランプが割れていた。昇が剛に言った。
「この程度なら大丈夫。俺んトコに来りゃ、すぐに直るさ。」
「ほ、ホントですか?」
「ウソ吐いてどーすんだよ。当て方が上手かったな。ダメージが最小限に食い止められてる。」
昇は携帯を掛け、ショップに連絡を入れた。
「オヤジ。俺だ、昇だよ。」
『昇か…一体、こんな時間に何のようだ?』
「ああ、キャリアー1台まわしてくれ。」
『解った、で誰が事故ったんだ?』
「赤のHCR32。目立った傷はテールランプが割れてる、Rバンが傷だらけ。そん位だ。」
『で、ドライバーの名前は?』
「ん?ああ。澤田 剛って人だ。」
『澤田 剛……、赤のHCR32ってどんな仕様だ?』
「ん~っと…4ドアでBOMEXのFバンでリアスポレス、34R純正ホイールにnismoのボンダク。」
昇がR32を見ながらケータイに向かって言い放つ。
『……そうか、解った。』
「?じゃあ切るぞ。」
プツッ――。昇は電話を切った。
「ま、5分したらキャリアー来るから。」
・
・
・
「色々、すいませんでした。」
「なぁに、困った時はお互い様だよ。」
「それじゃ。」
赤のR32を乗せたキャリアーは峠を下っていった。
「ハハハ…お前も良いトコ有るじゃねーか。」
「ヘッ、いつでも俺はいいヤツだぜ?」
ハハハと2人で笑っていると、昇の後ろに衝撃が走った。
「グアッ!?」
「よっ!元気そうね!」
「ちーす。遂に、DC5インテグラ(以下DC5)から乗り換える気になったのか?」
「ブブ~。って言うか、私は、このコから乗り換える気は全く無いの!」
洋子が後ろの方に停めてあるDC5を指差しながら、陽気な裕也に反論する。
「でもよ、ドリフトしたいなら、マジでFRかMRにでも乗り換えたほうが良いんじゃねーのか?」
「乗り換える気は無いの。それに裕也君もドリフト好きのクセしてGC8に乗ってるでしょ~?」
「オレは4WDでもドリフトさせれるウデがあるから乗り換えないんだよ。」
「へ~え。そんなに運転上手かったっけ~?ハナシ大きくしてな~い?」
「ハハハ、チョッピリと。」
2人で談笑している間、昇は無視され続けた。と言うか、2人に踏まれていた。
すると、後ろから足音が聞こえた。良次が昇を踏みつけてソコに立っていた。
「うーす、裕也に洋子!」
「ああ、良次さん。」
「どーも。」
3人で昇を踏みつけながら、しばし会話が続くと昇が起き上がった。
「てめぇ等、なに踏ん付けてんだよッ!!」
『お前だ。』
「そうじゃねーよッ!なんで俺を踏ん付けてんだよ、って聞きてぇんだよ!!」
「カリカリするな。カルシウムが足りないなら牛乳を飲め。」
「そうね。裕也君の言う通りね。」
「全く同感だな。」
昇が1人で叫んでいるが、他の3人はスルー。
「おい!良次ッ!勝負しやがれ!!」
昇が良次に挑戦状をたたき付けた。
「フン。お前とバトルしても仕方がない。」
だが、良次は冷静に却下する。
「じゃあ、私が行こうか?」
「どっちかと言うと、オレが行きてぇ。」
『なんで?』という声が上がり裕也が答えた言葉は…『ブッチギりてぇ。』裕也のお約束のパターンである。
「いや、良次にバトルを申し込んでるんだが……。」
「じゃあ、4人で走ろうか!」
「洋子、お前ってタマには良いこと言うよな。」
「リーダー、『タマには』って言葉は要らないですよッ!」
「解った、解った。」
色々している間に4台はスタートラインに並んだ。
「良次さん、洋子との仲を取り合ってあげても良いですよォ?」
「バッ、なに言ってんだよ!」
「どうですかねぇ~?」
明らかに良次が動揺したのを見て、裕也は意地悪く笑ってみた。
と、裕也は次に洋子の方へと向かった。
「洋子、良次さんとの仲を取り合ってやっても良いぜぇ?」
「な、なに言ってるのよッ!」
「ふ~ん、ホントのトコはどうだかねぇ~?」
裕也は確信した。『良次さんと洋子は両思いか。』と。
裕也はインプに乗り込み、カウントを待った。
「DC5インテグラ」 V,S 「S15シルビア」 V,S 「GC8インプレッサ」 V,S 「AE86トレノ」
「カウント行きますよォーッ!……5,4,3,2,1,GO!」
スターターがカウントを終えると同時に、4台は一気に加速した。
ホイールスピンを抑えて加速するDC5。
派手なホイールスピンをかましながら加速するS15。
4輪で地面をしっかり蹴りながら加速するインプ。
絶妙なクラッチミートで一気に加速するAE86トレノ(以下ハチロク)。
第1コーナー突っ込みの順位は、S15、ハチロク、DC5、インプ。
だが、立ち上がりでハチロクが前に出て、S15を抑える。DC5・インプはドリフトでクリアしていった。
そして、クイックなステアの切り替えしでケツを滑らせながら、2つ目のコーナーもハチロクは簡単にクリアしていく。
だが、短いストレートで再びS15が前に出る。
「…パワーは一級品だな。」
「おらおらァ!攻めて行くぜぇ!」
ハチロク・S15がデッドヒートを繰り広げている中、DC5とインプはツインドリフトや慣性ドリフト等の高等テクニックを披露していた。
ハチロク・S15のデッドヒートよりDC5・インプのドリフト披露の方が盛り上がっている。
「ほい、次は2速のコーナーっと~。」
「やっぱりお尻を滑らすのって楽しいッ!」
テキトーに華麗なドリフトを決めていく2台、ドラテクはドチラも十二分なモノだった。
「さて、パフォーマンスはコレ位にして、攻めて行くかッ!」
裕也はインプのアクセルを踏み込み加速する。それに続いてDC5も加速した。
インプ・DC5がS15・ハチロクに追いつき、4台のマシンが天満峠を下っていく。
ここから、中盤セクションに突入。中盤セクションは下り勾配がこの峠中で最もキツく、又コーナーの数も半端なく多い。
パワーよりもドラテクが重要になるセクションで、トップに居た筈のS15が後ろへと後退していく。
代わりに前に出た裕也のインプに、後ろから良次のハチロクがピタリとくっ付いてくる。
そして、少し遅れるようにして、洋子のDC5がハチロクの後を追う。昇のS15は最後尾となってしまった。
素早いコーナー突っ込み、そして、全開でコーナーを抜けていく。
EJ20と3S‐GEのエキゾーストが交わりながら、天満峠を奏でていく。
「裕也もやるな…。」
「良次さんには悪ぃけど、トップは渡さねぇ!」
裕也はアクセルを脚力いっぱいに踏み込み、インプを加速させていく。
だが、緩やかなコーナーで少しインプの挙動が怪しくなる。
「チッ…後ろの踏ん張りが甘い…今まで散々滑らしてたせいか…。」
「裕也の動きが少し怪しくなってきた…タイヤか…タイヤが熱ダレ起こしてんだな…。」
そして、一瞬インプがバランスを崩す。良次はそれを見逃さなかった。
加速にもたついたインプを横からスパンとオーバーテイク、インプの目の前に出る。
「……チッ、タイヤはどうにもならない…けど、オレだって金が無い時は、廃タイヤで練習してたんだ…。
グリップが低下しても、オレはイケるッ。」
裕也の思いに応えるかのように、インプのスピードメーターがハネ上がる。そして、再び良次をオーバーテイク。
「……、いくら何でもムチャだぜ、そのスピードは!」
視界に広がるキツいヘアピンコーナー。明らかにインプはオーバースピードである。
「っつぅッ!」
裕也はブレーキング体制に入る。シフトを2速にチェンジし、ハンドブレーキでケツを出す。
ラインがCPに着かない。インプはアウトへとハラんで行く。
そのスキに、ハチロク・DC5がオーバーテイク。裕也の後ろに昇がピタリとハリ着く。
「ワルいが、勝たせてもらう。」
良次はシフトを4速にチェンジ。ハチロクは、あっという間に3人の視界から消え去った。
「あ~…、速すぎ…。」
ストレートでDC5をオーバーテイクした裕也がツブやいた。
「そんじゃ、2位はオレがゲットぉ。」
裕也はスロットルを入れ直し、セカンドポジションを狙う為、峠を駆け抜ける。
さて、セカンドポジションをゲットするのは誰なのか。