2025年末、政府は一般会計で約 18兆3034億円 に及ぶ補正予算案を国会に提出した。これはコロナ禍以降の大規模対策期を除けば過去最大の規模で、物価高対策や産業振興を通じて国民生活の安定と経済の再構築を同時に狙う「大盤振る舞い」の予算といえる。





🔎 補正予算の重点 — 三本柱



まず第一の柱は、 物価高・生活費負担の軽減。電気・ガス代補助、食料品の価格高騰対策、子育て世帯への給付、低所得者支援などを通じて、家計の負担を和らげようというものだ。とくに、子ども1人あたりの給付金や、エネルギー支援は、家計の切迫感を直接和らげる効果がある。


第二は、 危機管理と成長投資による経済基盤の強化。デジタル化・省力化・AI導入支援、中小・中堅企業の設備投資支援、先端産業(AI、半導体、造船、グリーン産業など)への重点投資、防災・エネルギー安全保障、サプライチェーン強化など、多岐にわたる。政府はこれらを通じて「強い経済」を作る土台づくりを目指している。


第三に、 安全保障および国際環境の変化への備え。防衛費の拡充や外交・資源安全保障関連支出の強化などを含み、ただ経済対策にとどまらず、国家全体の安定性にも目を向けた構成だ。


加えて、将来の不確実性(物価再上昇、災害、国際危機など)に備える 予備費 の確保も明記されている。





✅ 期待される効果



この補正予算が意図どおり機能すれば、国民生活と日本経済の両面で大きな恩恵を生む可能性がある。


  • 家計の底支え。消費の下振れ防止。
    物価高・エネルギー高の抑制、子育て世帯支援などは、暮らしの不安を和らげ、消費の急減を防ぐ。特に低所得者層や子育て世帯、高齢者など「困りやすい人」にとっては即効性が高い救済策となる。
  • 産業の競争力・生産性の向上。
    中小・中堅企業の設備更新、IT化、AI導入、省力化支援は、生産性改善や人手不足の緩和につながる可能性が高い。先端産業への投資が成功すれば、輸出や新技術創出を通じた成長も期待できる。また、地方都市や地方産業の再活性化にもつながる可能性がある。
  • 経済の底上げと長期的な税収増。
    成長投資によって企業収益が改善し、賃上げや新規投資が進めば、将来的な税収基盤の強化 → 社会保障や公共サービスへの安定財源確保という好循環を生みうる。
  • 国家の安全保障・レジリエンス強化。
    防衛費や供給網の強化、資源安全保障の強化は、国際情勢が不透明な今、国家の安定性を維持する上で重要。経済・安全保障の両立という“広い視野”を持つ姿勢だ。






⚠️ ただし懸念と限界も多い



一方で、この補正には大きなリスクと不確実性があって、「賭け」と言っても過言ではない。


  • 借金(国債発行)による財政負担の増大。
    補正の大部分(60%超)は新たな国債発行で賄われる。 将来的な金利上昇や債務返済の重荷は、社会保障や福祉、教育など国民生活に直結する支出を圧迫する恐れがある。
  • 使われ方の透明性・実効性。
    補助金や支援が本当に必要な企業・世帯に届くか、支援を受けてもその後の自立につながるかは不透明。とくに成長投資では、「補助ありき」の延命や一時しのぎに終わる可能性がある。
  • 一過性支援の限界。
    給付金やエネルギー補助は“今”は助かるが、根本的な賃金上昇や生活コストの抑制にならなければ、効果は一時的。支援の継続性や恒久的な制度設計がなければ、“また次の補正”の必要性が繰り返される。
  • 成長分野の選定ミスや国際環境の変化。
    政府が「先端産業」「成長産業」と位置づけた分野が必ず成功する保証はない。世界的な競争激化や技術革新のスピード、海外需要の変動によっては、投資が無駄になるリスクもある。






📌 結論 — 「賭け」と「希望」の両立



今回の補正予算は、日本が直面する複数の危機――物価高、人口減による労働力不足、国際的な安全保障の不透明性――に対する、“総合的かつ野心的な対応”だ。生活支援と成長投資、防衛の三本柱は、それぞれ異なる層・分野をターゲットにしており、「今の痛みを和らげながら、将来に備える」という両立を目指している。


しかし、その成否は「支出の使い道」「実行力」「民間の反応」「国際情勢」に大きく依存する。補正がただの「バラまき」で終わるのか、本当に経済基盤の再構築につながるのか――結果が出るまでは分からない。


私たち国民としては、この補正を単なる「景気対策」「福祉措置」として受け取るだけでなく、「どこに、どんな形で、いくら使われているか」を注視し、政府に対する説明責任と透明性を求め続ける必要がある。補正予算は「日本の未来への投資」。その効果を国民ひとり一人で見守る責任と覚悟が、今こそ問われていると思う。