13
ロビーに着くと、ちょうど准がホテルのドアから出て行く後ろ姿が見えた。歩き方が怒ってる。
「准!待って!」
あたしは辺りを憚らず大声で叫んだ。
准が振り向く。が、一瞥すると無視して回転ドアを押した。
「待ちなさいってば!…あっ!」
慌ててすっ転んだ拍子にヒールが脱げて転がった。
するとその場にいた白人の男の人がヒールを拾った。
そして、それを持ってそばによると、
「Are you Okay?」
と言ってあたしの足に触れてヒールを履かせてくれようとした。
「あ…」
と、そこへ准が駆けつけて来て、彼の手からヒールを奪い取った。
准はため息をつくと、跪いてあたしにヒールを履かせてくれた。
「立てる?ケガしてない?」
まだぶっきらぼうな言い方だけど…
「…優しいのね」
「普通だろ」
「でも怒ってたんでしょ?」
「怒ってた、じゃなくて、怒ってる、だ」
「現在進行形?」
「ああ。せっかくのデートが台無しだ」
「あたし、昌さんのデートも台無しにしちゃった」
「まさか、美人局を阻止するために昌さんを誘ったのか?」
「なるほど。その手があったか」
「ふざけるな」
「誘うわけないでしょ!」
「じゃ、誘われたのか」
「…ない。誘われて、ない!」
「じゃ、なんで胸にカードキー差し込まれてんだ?どうやったらああいう状況になる⁈」
「ごめんなさい。あれはちょっと…油断しました」
あたしは准に経緯を説明した。
「…昌さんって…まだ聡美のこと好きなの?」
「それは無いわよ。だって女の人とホテルに来てるのよ?まだあたしを好きなら、デート邪魔されて悔しがる?」
「それとこれとは別かもしれない」
「何言ってるの。ねぇ、帰りましょう。賭けはなかったことにして」
「どういうこと?」
「今日は准を怒らせるようなことをしたあたしの負け。悪かったわ。ほんとにごめんなさい。だから帰ってゆっくり…」
「ゆっくり…?」
あたしは准の耳に唇を寄せて、囁いた。
「お仕置き…して…」
准がカッと赤くなる。ニヤける口元を手で押さえて俯いた。
それから准はジャケットの内側に手を入れた。
何を取り出すのかと思ったら…
准がトランプみたいにカードキーを指に挟んであたしに見せた。
「あら。手品みたい。ちゃんと部屋取ってたんだ」
准はニヤリと笑って、
「家には帰らない。お仕置きは10階で」
とあたしの胸元にカードキーを差し込んだ。ヒヤリと冷たいカードの感触。
「…10回もするの?」
「10階!」
准は赤い顔して上を指差した。