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一旦署に戻った井ノ原と岡田は二宮たちと合流した。
独竜会に当たった2係の連中の報告によると、独竜会が組織ぐるみで何か隠している様子はなかったという。
「だからですね…」
と二宮は声をひそめて岡田と井ノ原に言った。
「ひょっとしたら、懸賞金目当てに誰かが単独で博さんを…って可能性が」
「誰かって?」
「それがわかれば苦労しませんよ」
「で?日本橋の目情の詳しい場所は?」
「ホテルです」
二宮は日本橋随一の高級ホテルの名を告げた。
「宿泊者名簿は?」
「調べました。博さんの名前はありませんでした。博さんと関わりがありそうな人物の名前も」
岡田は腕を組み、ふむと顎に手をやった。
「誰かとの待ち合わせに使っただけかもしれないな」
クリスマスイブの3日前。立派なツリーが飾られた高級ホテルのロビーで白いロングコートを羽織った長野が人を待っている。あまりにサマになりすぎて、その光景は容易に想像できる。
…女か?
あれだけの男を女が放っておくわけがない。だから、彼女のひとりやふたりいてもおかしくないはずだが…
「長野さんって付き合ってる人いるの?」
岡田が聞くと、二宮は首を捻った。
「さぁ…僕に聞かれても…」
岡田は井ノ原に声をかけた。
「主任、知ってます?」
「長野に彼女がいるかどうか?知るわけないじゃん」
長野のプライベートは謎に包まれていた。
ここにいる誰も長野に交際相手がいるかどうか知らなかった。
「なんでも一人でできちゃうからね、あの人。色気より食い気かも」
と井ノ原は言った。
「確かに。長野さん、料理だって上手いし。でも、一人じゃできないことだってありますよ」
と岡田が言うと、井ノ原はへにゃっと情けない顔して、岡田の肩に手を置いた。
「准ちゃ〜ん、それバツイチ独身の俺に言う?」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃ…」
「これだから新婚はさぁ」
「新婚じゃないっすよ//」
「新婚だろぉ?バツイチ新婚じゃねーか」
と口を尖らせる。
「やめて下さいよ//」
「一人じゃできないことやってんだろぉ?毎晩」
「いや…」
岡田は鼻に手をやり、照れ笑いしながらあらぬ方を向いた。
「…やってないっすよ」
と俯いて言うと、井ノ原は大袈裟に驚いてみせた。
「やってねーの⁇おい、それ問題じゃねーか!どういうことなんだよ?ちょっと話聞かせろ!」
「いや、毎晩は、やってないって」
「何正直に言っちゃってんだよお前。毎晩やれよ!新婚だろ?今やっとかないと」
「今やっとかないとって…」
「そのうち『今日はちょっと疲れてるから』とか『もうそういうのいいから』とか言われるんだから!」
「言われたんすか?」
「え?」
「別れた奥さんに言われたんすか?」
岡田は片眉上げてニヤついて井ノ原を見た。
「いや…あの…ああ、そうだよ言われたよ!悪いか!俺の話はどうでもいいんだよ!今、お前の話だ!」
「いや、ちょっと待って下さい!」
と二宮が割り込んだ。
「今は井ノ原さんの話でも岡田さんの話でもないっしょ!ふたりとも、博さんのこと、心配じゃないんすか⁈」