野分❻抱きしめて | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?



イノッチと学生時代の思い出話で盛り上がった。さんざん笑って、涙まで出た。


「俺たち、やばい!お茶で宴会できるね」



「だよねー?最高だね」



「いや、若菜最高だよ。マジで」



こんなに気が合って楽しくてずっと好きだったのに、私たちは友達以上になることはなかった。


イノッチは、私の気持ちに気付いてなかったのかな。


私がずっと独身なのは、イノッチ以上の人に出会えなかったからだ。



「あぁ



やっと笑いが収まって、一瞬部屋が静かになった。



風で窓がガタガタ鳴った。雨粒が激しくぶつかる音もする。



「ハハ台風よりうるさいね。俺たち」



「ふふ。ほんと」



イノッチはソファの背にもたれて、膝の間で組んだ手を見つめた。


「ああ寂しくなるなぁ



ドキッとした。



急にうつむいて、しんみりとそんなこと言わないで。




「詩乃のことをこうやってさ、一緒に笑って思い出せるじゃん?若菜とは」




ああそっちかあ。



「柚乃がいるじゃん。詩乃の妹なんだし、私なんかより



「ああそうだね。でも共通の話題はやっぱり若菜の方が多いよ。学生時代一緒に過ごした仲だからね



イノッチは膝に肘をついて、組んだ手をじっと見つめている。



その視線の先に詩乃を思い描いてるんだろうか。




切ない。




「今でも好き?詩乃のこと」



すると、イノッチはパッと顔を上げた。



その真剣な眼差しにドキッとする。




好きだよ」




面と向かって真面目な顔で言われて



詩乃のことなのに、自分が言われたみたいにカッと顔が熱くなった。



まずい!絶対赤面してる!



なのに、イノッチは私をからかわずにまだじっと見つめている。



……//



やっぱりイノッチはカッコいい。



あんなにひょうきんなのに、いきなりこんな。ずるいよ。顔から火が出そう。



何赤くなってんだよ!って指差してからかってよ。じゃないと、どうやってごまかせばいいの?



イノッチが好きだ。



ずっと好きだった。



詩乃が好きになるより早く好きになってたんだよ?



ダメだ。思いが溢れてイノッチに私の気持ちがバレてしまう。



しばらくして、イノッチが口を開いた。




「だけど、詩乃はもういない」



そんな切なそうな顔しないで。詩乃の代わりになれるなら、なってあげたいよ。私だって。




「ありがとう。若菜。詩乃がいなくなってから、若菜の存在にずっと救われてた」



イノッチの誠意と優しさが伝わってくる。大好きなイノッチの笑顔。



限界だった。



私の目から涙があふれた。




「イノッチ好きだったの。ずっと好きだった」



イノッチは少し驚いた顔をした。



「好きだったんだよ。詩乃が見つけるより先に私が見つけたの!イノッチを」



「若菜



「イノッチのせいで私、婚期逃したんだよ?」




イノッチは組んだ手を開いたり閉じたりしながら、しばらく黙っていた。



それから顔を上げて、ニコッと笑った。



「でも、若菜ならきっといい出会いがある」



ああ



「イギリスで?」



「すげーイケメンに出会えるかも」



イノッチみたいな薄い顔がタイプなの」



「そっか。え?それって、俺がイケメンじゃないってこと?まあ、そうだよな。俺イケメンって言われたことない。イクメンならあるけど」



「両方だよ。イノッチはイケメンのイクメンだよ」



「マジか。そんなこと言ってくれんの若菜だけだな」



「イノッチ!」



私は涙に濡れた顔を上げた。



「イノッチ私の一生のお願い聞いてくれる?」



「一生のお願い?」



真面目に取っていいのか、笑いに持って行った方がいいのか、イノッチはリアクションに戸惑って微笑んだ。



「こっち



私はイノッチの手を取って立ち上がった。



「なに?」



私はイノッチと向い合うと、一歩踏み込み、思い切っていきなりその体に抱きついた。




「抱きしめて!」



「うわっ⁇ちょっと若菜⁇」



「恥ずかしいから、はやく!」




「え⁈い、いいの?」



「いいの!」



痩せていると思ったけど、やっぱり男の人だ。腕を回すと想像以上に厚みがあった。胸板だけじゃなくお腹も硬く、かっちりしていた。



イノッチはそっと私の背中に腕を回した。イノッチの清潔な匂いにふわっと包み込まれる。



優しい。じんとする。涙が出る。



男の人に抱きしめられるのは久しぶりだった。



「もっと強く



そう言うと、ギュッと抱きしめてくれる。



「もっと。私を詩乃だと思って」



すると、イノッチは一瞬ためらった後、思い切りギュッと力を入れた。



息苦しいくらいに強く抱きしめられて、その力強さにハッとした。



詩乃はこんなふうに愛されていたんだ。




詩乃の前で、イノッチは男だった。



私の知らないイノッチ



胸がドキドキする。