触れたくて 14 条の部屋 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

エレベーターの前で立ち止まり、ボタンを押して、条くんが振り向いた。


「花見、まだやってんの?」


「うん」


「抜けて来たの?」


「…っていうか、戻らなかったの」


「…ああ」


条くんの後について、やってきたエレベーターに乗った。



狭いエレベーターの中で条くんとふたりきりになった。





階数表示を見る条くんの横顔。綺麗な二重まぶた。尖った喉仏。


あんまり静かで…私のドキドキが聞こえちゃうんじゃないかと思うと、よけいドキドキした。


ふいに、条くんが、


「戻らなくてよかったの?」


って私を見た。


ぼうっと見惚れてたから、私はちょっと慌てた。


「あ…うん。瀬名さんが『行って来たら?』って。『みんなには適当に言っとくから』って」



条くんは顔をしかめて、


「だったら最初からそう言えばいいじゃん。5分とかせこいこと言わずにさぁ」


って呟いて、また階数表示に目をやった。


…確かに。






条くんの部屋のあるフロアに着いて、エレベーターを降りた。



前を歩く条くんの背中。


これから条くんの部屋で、条くんと一緒にビールを飲んで…


一緒に笑って、そして…一緒に泣けるといい。


条くんが少しでも慰められれば、それでいい。


そのために、来たんだもん。


条くんが玄関のドアを開けて、


「どうぞ。上がって?」


って言って私が中に入るまでドアを押さえててくれた。


私は条くんの体に触れないように身を縮めた。条くんの胸が目の前にあって、条くんの匂いがした。

条くんに抱きしめられた記憶が一瞬よみがえって、胸がキュッとなった。


でも次の瞬間、条くんが動いて、私の視界が開けた。と同時に、パッと靴箱の上に立てかけてある写真が目に飛び込んできた。




それは、千帆さんの写真だった。




考えてみれば予想されたことなのに、条くんと会える嬉しさで一杯になっていた私は、不意を突かれて、動揺した。





綺麗な千帆さんの笑顔。

写真の前に置かれた桜の小枝。






『ただいま。千帆』

そう言って優しく写真に微笑みかけて、桜の小枝を置く条くんが目に浮かんだ。




ふたりの間で積み重ねられた


「行ってきます」
「行ってらっしゃい」


「ただいま」
「おかえり」


それが分厚い層になって私の前に立ちはだかった。