「はい、じゃあ…とっとと茶話会やっちゃって、早くお家に帰りましょうか」
って俺が言うと笑いが起きた。
「帰りたくなーい!」
「卒業したくなーい!」
健が卒業生たちを見渡す。
「卒業したくないの?ほんとに?じゃ、もう一年いる?留年すりゃいいじゃん」
「すりゃいいじゃんって」
宝が笑って、
「もう卒業認められた人たちだから。ほら、卒業証書持ってるから。みんな。ね?」
とみんなを指さして、健を見た。
「あ、そっか。じゃあみんな…」
健が一歩前に出て、仁王立ちになる。
「しのごの言わず大人しく卒業しなさい!」
会場から笑いが起きる。
「巣立ちなさい!このぬくぬくした巣から社会という名の厳しい空へ飛び立つのです!」
「なぁんなの?急に。何者だよお前」
見かねて前に出て、照れ笑いしてる健の隣に並ぶ。
「え?何者って親鳥だよ。俺たち親鳥」
「親鳥?」
宝も腕組みしながら前に出てきて、俺の隣に立った。
「ほら」
健がみんなを指差す。
「ヒナたちが物欲しそーっに口開けて俺たちのこと見てんじゃん」
生徒たちが笑って、口々に俺たちの名前を呼ぶ。
俺がマイクでボソッと、
「ピーチクパーチクうっせぇんだよ」
って言うと、かえって黄色い歓声が上がった。
俺たち三人は笑い合った。
「じゃあそろそろ行きますか」
「行きましょうか」
「ヒナたちの巣立ちを祝って」
「羽を休めたくなったら…いつでも、ここに帰って来てください」
と宝が言うと、会場からヒューッと声が上がった。
「また飛べるように、崖から突き落としてやるから」
と俺が後を継いだ。
「それ、ライオンだって!」
健が俺を指差して、みんなが笑った。
「そうだっけ?」
「ライオンの母親!」
「条くん!俺のセリフが台無しじゃねーかっ」
しばらく笑いが収まるのを待って、じゃあ行きましょう、と言うと、宝がピアノの前に座った。
会場がシンとする。
宝がマイクに向かって言った。
「今日は3月1日ですが…みんなも一緒に歌ってください。『3月9日』」
宝が鍵盤に指を下ろすのを、健とふたりで振り返って見ていた。
前奏の後で、宝が歌い始めた。