桜の蕾 21 すれ違い | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?


「病院にいるそうです。上野さん」


「病院って…それで遅れてんのか?」


「たぶん。あ、式が終わったら条先生に病院に来て欲しいって言ってました」


「は?どういう意味?遅れて来るんだろ?俺が行くの?第一、どこの病院?」


「上野さんのかかりつけの病院だそうです。条先生は知ってるって言ってましたよ」


「俺が知ってるかかりつけ…?」


「はい」


俺が知ってる病院っていえば…レイプ未遂のあとしばらく通院してた心療内科だ。


時々カウンセリングについて行ってた。そこに行ってんのか?


「確か、大丈夫だけど不安だって言ってて…」


ドキッとした。

大丈夫だけど不安…って、またあれを思い出すような何かがあったってことか?



「条先生に迎えに来て欲しいってことじゃないですか?」


「でも、茶話会までに行くって向こうが言ったんじゃないの?」



話がよくわからないのは、多分桜が言った事実と、こいつの解釈が混ざってるからだ。


とにかく、山田と話したってらちがあかない。事実を確認しなきゃ。


俺は内ポケットからスマホを取り出した。

桜からの着信はない。


俺はステージを飛び降りて、足早に体育館の出口に向かいながら桜に電話をかけた。



桜…いったい何があった?



体育館を出て、スマホを耳に当てながら眉間に皺を寄せて桜を探す。ひょっとしたらもうこっちに来てるかもしれない。


だが、電話は繋がらなかった。


電波の届かない場所にいるか、電源が入っていないためかかりません」


もう一度掛け直したが、同じだった。


あたりを見回すが、桜の姿はない。
ネクタイが春の風になびく。


もう一度かけなおす。


「何やってんだよ…出ろよぉ…っ…桜…っ」





***


私は機内モードにしたスマホで動画を撮りながら桃ちゃんの答辞を聞いていた。


「…最後に、一番近くで私たちを支えてくれた家族…本当にありがとうございました」


桃ちゃんはぺこりと一礼し、そしてまっすぐに保護者席を見た。


「最後まで諦めないこと、お互いを思いやる優しさ…それを教えてくれたのは、あなたたちでした」


これは、千帆さんと条くんに届けられるべき言葉だ。ほんとはここに、私ではなく、千帆さんがいなきゃいけないのに…。


「当たり前のありふれた毎日が、実は、多くの人に支えられた奇跡の連続だということを、私は今噛み締めています」


桃ちゃんの視線の先に、千帆さんはいない。でも、必ず届けるからね。桃ちゃん。



「卒業後、私たちはそれぞれの道に進みますが、どんな道に進もうと、今度は私たちがその奇跡を支えられるような大人になります。必ず、なります」


最後の挨拶を言って、桃ちゃんの答辞が終わった。


精一杯大きな拍手を送って、それから私は急いで席を立った。



早く病院に戻って、千帆さんにこれを見せてあげなきゃ。



「卒業の歌。卒業生、起立!」


体育館を出るとき、卒業生たちが一斉に立ち上がって、ピアノの前奏が流れた。


女子高生たちの歌声が、体育館の外まで聞こえて来た。



流れる季節の真ん中で
ふと日の長さを感じます
せわしく過ぎる日々の中に
私とあなたで夢を描く



3月の風に想いをのせて
桜のつぼみは春へとつづきます




私は走ってバス通りに出ると、通りがかったタクシーに飛び乗った。