※本日2話目の更新です。
15話 桜と千帆からどうぞ。
ハッとして千帆さんが苦しげに顔を上げた。
「あなたは…条くんの…っ…」
そこまで言ってまた苦痛に顔を歪めて丸くなった。
そのとき、背後から誰かの足音が聞こえた。
「どうしました…?」
その人はタクシーの運転手さんだった。
「大丈夫ですか?タクシー頼まれた方ですか?」
って千帆さんと私を見る。
千帆さんが、
「はい…。あの…」
と小さな声で、都内の女子校の名前を告げた。
あ。もしかして、桃ちゃんの…卒業式?
「そこまで…お願いします」
「いや…でも…」
運転手さんは戸惑って私を見た。
「千帆さん…でも…こんなんじゃ…」
「しばらくしたら、薬が効いてくるから…っ…。桃の…答辞…が…」
「桃ちゃんが、答辞読むんですか?」
千帆さんはコクリと頷いた。
私は運転手さんに向き直って、
「お願いします!」
と言って肩を借りた。
ふたりで千帆さんを支えてタクシーまで歩き、私は千帆さんと一緒に後部座席に乗り込んだ。
「桜さん…あなた…ヴィクトリー校の卒業式に…」
「ちょっとぐらい遅れても平気です」
遅刻の連絡を入れようとスマホを取り出したとき、千帆さんがウッと呻いて…次の瞬間、嘔吐した。シートが吐瀉物で汚れた。
「千帆さん…⁈」
千帆さんは青い顔をして呻いている。
桃ちゃんの答辞を見たいだろうけど…こんな状態じゃ学校まで行けたとしても、式場で座ってられないだろう。
千帆さんの病気のことが気になった。
「千帆さん、病院行きましょう!」
千帆さんも、青ざめた顔で力なく頷いた。
運転手さんにビニール袋やティッシュをもらって、苦しそうに吐き続ける千帆さんの背中をさすった。
「千帆さん!かかりつけの病院は?」
千帆さんは目を閉じてぐったりとシートにもたれ、答えられる状態じゃない。
「バッグ開けますよ?いいですか?」
返事を待たずに千帆さんのバッグを開けて、保険証と診察券を見つけ出した。
診察券を見て、ドキッとした。
「この病院で…いいですね?」
千帆さんが薄目を開けて頷いた。
「運転手さん、ここに…がんセンターに行って下さい!急いで!」