大地の恵み。
何度も話すうちに、耳慣れないその言葉をレニーはいつのまにか覚えた。いつも、「恵み」の前で一瞬言葉に詰まったけれど。
レニーはジョージの言った言葉だけは覚えられた。
川の向こうに、レニーは自分たちの土地を見ただろうか。
ジョージ、見てるよ。
ジョージ…
ジョージ…
パァン…!という銃声の音にジョージはハッと飛び起きた。
「ちょっと…」
女の声がして、ジョージは裸でベッドの上にいる自分に気づいた。
「どうしたのよ…いったい…」
女はシーツで胸を隠して起き上がった。
「ひどい汗…。悪い夢でも見たのかい?」
ジョージは自分の両手を見て、それからその手で顔を覆った。
「…夢?…そうだ。悪い夢だ…。いっそ忘れてしまいたいよ…」
ジョージの声は震えていた。
「あぁ…あいつみたいになんでもかんでも忘れちまえればいいのになぁ…」
ジョージは顔を覆ったまま呟いた。
「あんた…。ねぇ…」
女はジョージの肩に手をかけて、
「先週は随分ご機嫌だったじゃないの。あの話をしているときは。なのに…いったいどうしたっていうの?」
と話しかけた。
ジョージは何も答えなかった。
「…泣いてるの?どうしてあの話をしちゃいけないの?」
ジョージは女の視線を逃れるように片手で額を抑えて俯いていた。
しばらくして、ジョージが言った。
「どうしてかって?…だって…あの話をする相手は…決まってるんだ」
ジョージの涙声に、女は眉をひそめた。
「俺と…あいつの夢だったんだ…。バカな夢だよ…。そうさ。叶うわけない…」
ジョージは首を横に振った。
「だけど…だけど…叶わなくても…よかったんだ!だって叶うわけないんだ。最初からわかってた。…俺は…」
一瞬額から手を離して鼻をすすると、ジョージは女と反対の方を向いた。
下がった眉。涙に濡れた瞳。
そしてまた片手で額を覆った。
「俺はただ…あいつと…っ…もっと…ずっと…一緒に…いたかったんだ…っ!」
ジョージの涙はもはや隠しようがなかった。
「ああするしかなかった…。そう思っても…っ…もしかしたら…別の方法が…あったんじゃないかって…。もっと…」
「ジョージ…」
「ずっと…一緒にいられる方法が…あったんじゃないかって…ひょっとしたらって…思わずにはいられないんだ…。だけどわかってる…ああするしかなかった。ああするしかなかったんだよ…っ」
女にはジョージが何を話しているのかわからなかった。けれども、ジョージの悲痛な気持ちは痛いほど女に伝わった。
女は我知らず涙を流していた。そしてガバッとジョージを抱きしめた。
ジョージは顔を覆ったまま女の胸に抱かれ、肩を震わせた。
しばらく、ふたりはじっとそうしていた。