夕顔 番外編 最終話 年貢の納めどき | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「さて…と…」

惟光は月明かりの下に足を踏み出した。廊下を歩くと黒い影が伸びる。


「光る君に教えてもらわなくったって、勘はいい方なんだぜ俺は」


女房たちの局の辺りをうろついて、ある部屋の前まで来ると、立ち止まって中の様子を伺った。「そろそろ紙燭を消しますわよ」という声に聞き覚えがあった。


惟光は懐からふたつの扇を取り出すと、見比べて、一方を懐にしまった。


手にした扇を広げて咳払いすると、そっと御簾内に差し入れた。


「この扇の持ち主を探してんだけど」


「そ…その声は…惟光様?」


「当たり。俺の扇を持ってるのは君?」


御簾の内と外で交わされる会話。


「たしかに…わたくしは惟光様の扇を持っていますけど…」


「じゃあ…」


「でも…」


「ん?」


「これは…わたくしの扇じゃありませんわ」


「え?」


惟光は御簾内から扇を引き戻した。紅梅の扇を。


「あ。…やべ。間違えちゃったかぁ」


扇を見つめながら呑気に言って、


「ごめん。こっちだった」


と、さっき懐にしまった方の扇を広げて再び御簾内に差し入れた。


「まあ!馬鹿にしていらっしゃる!」


と、入れ替わりに惟光の扇が御簾の内から投げ出された。


「お返しします。松の扇を持っていても、待つ甲斐がありませんもの」


怒った声が聞こえたと思うと、衣摺れの音がして、どうやら女房は奥へ引っ込んでしまったようだった。


「だよなぁ…。恨むなら光る君を恨んでくれよな」


そう呟きながら立ち上がって、松の扇を紅梅の扇と一緒に懐にしまった。


この女房と同じように、私の扇ではないと怒った右近は、しかし、この女房と違って惟光を力尽くで御簾の内に引き入れた。


普通の女はそんな大胆なことはしない。

それでいて、まだ惟光を待つと言う従順さ。


「やぁばいなぁ…。だからヤだったんだけど」


浮気男もついに年貢の納めどきか?

いやいや、まだまだ…。


廊下を歩きながら、ふと月を見上げると、


「惚れさせた責任を取れよ。惟光」


と、ニヤニヤ笑う源氏の顔が目に浮かんだ。



fin.