夕顔 十六 物の怪 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「右近!」


闇の中を手探りで進むと、何かに蹴つまずいた。


「わっ!」


「ひっ!」


「右近か?」


「はい!」


どうやら右近はうつ伏せに倒れ込んでしまっているらしい。

「なんだ。どうした?」


「はい、もう…恐ろしさのあまり、吐き気がいたしまして座ってもいられず…」


「ばかな…。こういうとこには狐狸が住んで人を驚かそうとするんだよ。そんなに怖がらなくても大丈夫だって」


「そうは言いましても…」


「さあ、起きて」


源氏は右近を抱き起こし、同じように倒れている女を見た。


暗闇の中、手探りで女に近寄ってその体に触れ、ハッとした。


ぐったりと正体を失っている。


顔を近づけてみると、驚いたことに息をしていない。


そんなばかな…!


そう思ったとき、ぼんやりと辺りが薄明るくなった。


紙燭が来たか。


振り向くと、御簾の向こうに揺らめく火影が見える。


「右近、紙燭を取りに行け!」


源氏は女を抱いたままである。


右近は、わなわなと震えてかぶりを振る。


「は?何やってんの?早く!」


しかし、右近は動かない。紙燭を取りに行く僅かな距離も恐ろしいらしい。


苛立ちながら、源氏は仕方なく、女を床に下ろすと、片手を伸ばして几帳を引き寄せ、女を隠した。


それから、


「紙燭を持って参れ!」


と外の男に申しつけた。


しかし、男は畏れ多く、とてもそば近く上がることができない。


「まったくどいつもこいつも…。早くしろ!礼儀をわきまえるのも時と場合に寄るだろっ」


そう言われて、男は遠慮がちに紙燭を持って上がった。


「もっとこっちに!」


ようやく紙燭を差し向けて見て…


源氏は息を呑んだ。



夕顔の女の枕上に、すーっと白い着物の女が立っていたのだ。


さっき夢に現れた女だ…。



源氏はゴクリと唾を飲み込んだ。



女は振り向いた。長い黒髪に半分隠れた白い顔。赤く形のいい唇。ゾッとするほど美しいその顔は…どこか見覚えがあるような…。


女は、源氏を見ると微かに口角を上げた。


その瞬間、全身の毛がゾワッと逆立つような気がした。


それから、すっと消えてしまった。


一瞬の出来事であった。


源氏のこめかみを一筋の汗が流れた。


それから、ハッと我に返り、女を揺さぶった。

「大丈夫か?しっかりしろ!」


しかし、女はぐにゃぐにゃと頼りないままで息をしていない。


「嘘だろ?ちょっと待ってよ。…あぁ…どうしたらいい…?」


取り乱して、ただ必死になって抱きしめているうちにも、腕の中で女は体温を失っていく。


「まさか…そんな…お願いだから…っ…」


声を震わせて、目を閉じたままの女に話しかける。


「まさか、このままなんてことないだろ?そんなひどいことしないよね?」


「お姫さま!…ああっ!」


右近が、どうしようどうしようと言いながら、泣きうろたえるのを、


「大丈夫だって。じきに息を吹き返しなさる」


と、なだめるが、右近の耳には入らない。泣きわめく声が廃院に響く。


「落ち着けよ。ちょっと静かにしろって!」


そう言う源氏も動揺を抑えられない。


紙燭を持って来た男に、


「とにかく、随身に言って惟光の朝臣を呼んで来させて。『物の怪にうなされた人が苦しそうにしてるから』って。惟光の兄の阿闍梨もいたら、一緒に来てもらうように」


「はっ!」


「急げ!」


源氏は冷え切っていく女をぎゅっと強く抱き締めた。


惟光…早く来てくれ!