桐壺 二十五 藤の花 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

父は、あなたの中に僕の母を見ている。あの人が本当に愛してるのは、亡き母だけだ…っ」


源氏は、藤壺の女御の腰紐を解いた。


「僕たちはあの人にとって、ともに…亡き母の形代に過ぎない…っ」


源氏の若く一途な想いは、まさに、嵐のような激しさで、女御を襲った。











翌日、藤壺の女御は気分がすぐれぬと、帝のお召しにも諾うことができなかった。


「そんなに悪いのか…」



帝の脳裏に、亡き桐壺の更衣の臨終の姿が浮かび、胸がざわついた。


「では、見舞いに参ろう」


帝は立ち上がって、ふと思い付き、


「源氏の君を呼んで参れ」



と源氏を呼びに行かせた。



以前、源氏のことを話したとき、女御が「お寂しいのかもしれませんわね」と呟いていたのを思い出し、帝は、双方にとって慰めになればよい、と考えた。



まもなく現れた源氏の君は、玉座の前に跪いて畏まった。


帝はますます輝きを増すこの桐壺に似た美しい息子を惚れ惚れと眺めた。


源氏はおとなしく控えたまま、手の震えを抑えることができなかった。気味の悪い汗が美しい紅の直衣の下を流れる。


「ゆうべは…」


と父帝が口を開いたとたん、体がビクッと震えた。


「ご苦労であった」


飛香舎に見舞いに行けとは帝の命令だったのである。命令に背いたわけではない。任は果たした。だがしかし…


口の中が渇いて舌がくっつき、声を発することができなかった。



「あちらのお加減が悪いらしい。ゆうべは、どうであった?」


源氏はビクッとした。手の震えはますます激しくなった。

父帝は何もかも知った上で、青くなっている自分を嬲っているのではないかとさえ思った。


源氏は、そっと袖の中へ震える手を隠した。


「そういえば…ご気分がすぐれぬと…」



「そうか」


帝は手の内で、扇を閉じてパチッと鳴らすと、


「見舞いに行くが…ついて参れ」


と言って立ち上がった。



「畏れながら…っ」


源氏は床を見つめたまま、


「これから、わたくしは左大臣邸に参らねばなりませぬ。物忌みでしばらく参ることができなかったので。しかし、帝の仰せとあらば…」


「そうか」


と言って帝は閉じた扇を口に当て、あらぬ方を向いた。


「いや、ならば、無理せずともよい」


振り向いて源氏を見下ろすと、


「あちらも心待ちにしておるだろう。行ってやりなさい」



と言って立ち去った。


立ち去ってから、帝は、源氏が一度も目を合わせなかったことを、まだ自分に対してわだかまりがあるからだと理解した。



肩でふぅとひとつ息を吐いて、帝はわずかな供を連れて飛香舎を訪れた。



飛香舎の庭には、ゆうべの嵐で散った藤の花びらが地面を埋め尽くしていた。


帝は、供の者に散り残った藤の花房を手折らせた。


それを広げた扇に載せ、御簾の内に入ると、


「お加減はいかがですか?」


と、藤壺の女御に見せて、


「ご覧なさい。昨夜の嵐にも負けずに散り残っているものがあった」


と言った。


藤壺の女御は蒼い顔をして、露を頂いた藤の花房を見た。



「さぁ…あなたもこの藤の花のようにお強くいてくださらねば…」


藤壺のただならぬ様子に、帝の胸に不安がよぎった。


「なんと蒼い顔をして…。よもや、亡き人のように、あなたまで私を置いて行くようなことはすまいな」


帝は、俯いている女御の顔を覗き込むと、そっとその大きな手で、女御の冷たい頬を優しく包んだ。




ときに、

源氏、15歳。
藤壺の女御、20歳。
桐壺帝、25歳。


春の嵐がもたらした禁断の愛は、やがて、さらなる罪をふたりに背負わせることになるのであった…。



※だいぶアレンジしてますが、ここまでがオリジナルの「桐壺」の巻。ということで、一旦終了します。