ふたりのパン屋 31 再会 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「あなたたちに『お兄さんでしょ?』って言われて…もう二度と会わないつもりだったし、自分のことがバレてしまったら…と思うと、つい本当のことが言えなくなってしまって…」


お兄さんが…いや、お兄さんじゃないその人が、辛そうな顔をして、たどたどしく話す。



「ほんとに…すみません…っ」


また深々と頭を下げる。



俺より驚いてるのは、麦さんだった。


言葉をなくして、俺と彼を交互に見つめる。


この人は、麦さんのお兄さんじゃない…。



「あなたが謝る相手は僕じゃないでしょう」


と言うと、彼がハッとして顔を上げた。


麦さんを見る。


「どうして…知ってるの?」


この人は、麦さんが駆け落ちしてまで一緒になりたかった相手だ。



「店に来たんだよ。麦さんのハーブティーを買いに。それを俺と朝顔が勝手にお兄さんだと勘違いして…」


麦さんにそう説明すると、彼の方に向き直った。


「わかってましたよ。お兄さんじゃないってことは」



「え⁇」



気まずそうにしているふたりを見て、


「じゃ…僕はこれで…」


って数歩後ずさった。



「夕顔さん…」


麦さんが俺を振り向く。

その心細そうな顔に後ろ髪が引かれた。



だけど、ここは俺の出る幕じゃない。俺はまだ麦さんの何者でもない。



もちろん、一緒にいてくれと言われれば話は別だけど…。



だけど、麦さんはしばらくして、俺にぺこりと頭を下げた。



「すみません。いろいろ…ありがとう…」



俺を巻き込むべきではないという麦さんの意思が感じられた。



「うん。…じゃあね」



って口角を上げて笑顔を作る。



「さよなら」



「さよなら」



彼にも軽く会釈して、俺はその場を立ち去った。



雨粒が傘を打つ。

俺は前を見てただまっすぐ歩いた。



振り返ってふたりを見る勇気はなかった。


バシャン!


足元を見ずに歩いていたから、水溜りにはまってしまって…


今朝綺麗に磨いた革靴が台無しだ。


やけになって、今度はわざと水溜りに足を踏み入れた。バシャン!と派手に雨水が跳ねた。



「わかるわけないだろ…っ!」