ふたりのパン屋 28 朝顔の説得 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

そんなに飲んで大丈夫ですか?と、大将に心配されるほど、お兄さんはどんどん飲んだ。


「いやぁ…いいんです。僕はもう麦の人生とは一切関係ありませんから。麦がホストと付き合おうが…」


「今はパン屋です」


「あ。そうでした。麦がパン屋と付き合おうが…」


「まだ付き合ってはいないと思います」


お兄さんが晩酌の手を止めて、俺を見る。



「……。ま、どっちにしろ、僕には関係ありません」


クイッとお猪口に残った酒をあおった。



「関係なくはないでしょう?だって兄妹なんでしょう?」


お兄さんは黙っている。


さっきから、どうでもいいと言いながら、麦さんの話ばかりだ。



「どうして、会おうとしないんですか?」



俺は不思議に思っていることを尋ねた。


「向こうは会いたくないでしょう」



「どうしてですか?」



「麦を…ひどく傷つけてしまいました」



「謝ればいいじゃないですか」



「謝ってどうなるものでもありません」



頑ななお兄さんの態度が、俺にはわからない。


だって…。


お兄さんが少し冷めた顔をして、


「きっと許してはくれないでしょう。許してくれないとわかってて、それでも謝るのはいったいなんのためですか?」


って俺を振り向く。



「取り返しのつかないことをしておきながら、許してほしいと謝るのは、謝る側の勝手です。そんなものは自己満足でしかない。違いますか?」


って俺に詰め寄る。


「僕には…よくわからないけど…僕なら、許してくれるまで謝ります」


お兄さんがフッと笑ってお猪口に口をつけた。


「だって…それしかできないから」


もしも夕顔が俺から離れて行ってしまったら…


「夕顔が…好きだから…」


夕顔を失いたくないから。




「俺は、お互いに好きなら…許し合えないことなんて、ないと思います」




お兄さんが、ゆっくりと振り向いた。



「本当は、会いたいんでしょう?好きなんでしょう?麦さんのこと」


お兄さんの瞳の奥を覗き込むようにしてじっと見つめる。


本当は麦さんに会いたがっている。麦さんと仲直りしたがっている。

なのに、そうしようとしないのは…


「向こうが…どう思ってるか…わかりません。麦はきっと…」


不安げに揺れるお兄さんの瞳…。



「わからないことは、確かめればいい。

僕なんていつもわからないことだらけです。

わからないのは、とても不安です。人を不快にさせてるんじゃないか、迷惑をかけてるんじゃないかって…心配でドキドキして…。

だから、笑ってくれると安心します。好きな人の笑顔は、僕に力をくれます。

僕なら、夕顔が笑ってくれるまで、謝ります。一生懸命謝ります」


膝に乗せた両手をグッと握りしめる。


「麦さんの気持ちがわからなければ、会って確かめればいい。麦さんが笑ってくれるかどうか。

会って謝っても笑ってくれないかもしれない。

だけど、会わなければ…会わなければ…笑顔は見れません。絶対にっ」



黙ってカウンターに置いたお猪口を見つめているお兄さんの横顔に話しかける。


「…あなたは、麦さんの笑顔が見たくないですか?」



お兄さんがじっと俺の目を見る。俺はまっすぐその目を見つめ返す。



「そりゃ…見たいですよ…」