准が長屋を出て行った後で、お聡は、健吉から、准がかつて長野家に仕えていたことを知らされた。
それ以来、准が言った『未練が残る』という言葉の意味をずっと考えていた。
やはり引き止めるべきだったとお聡は悔やんだ。
きっと准さんは、何かよからぬことを企んでいる…。
そしておそらく、未練というのはこの世の未練のことなのではないかと…。
お聡を愛せば、
准にとって、
お聡がこの世の未練になる…。
だから…
『このお聡さんが毎晩相手をしてやらあッ』
そう啖呵を切った自分を叱ったときの、准の真剣な眼差し。
『本当はもっと早く出て行くべきだった』
と呟いたときの悲痛な横顔。
准さん…
あんたあたしに惚れてくれてたんじゃないのかえ?
あたしゃ…
あたしゃ…
あんたの未練になりたかったよ…。
はだけた着物の合わせから容赦なく欲望を押し付けてくる男に体を預け、お聡はポロリと涙を零した。
毎晩相手してやらあ、なんて、一体どの口が言ったんだい…情けない…っ。
惚れた男じゃなけりゃあ、物と同じよ。
物に抱かれて、何を失うっていうのさ。
さあ、煮るなり焼くなり、好きにしとくれ!