元彼元カノ 15 ラグビーばっか | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

※本日、三話めです。今日はここまで。また明日ピンク音符




あたしがラグビーで有名な大学に進学した春、准くんは、ラグビーを辞めた。


そして、高2の初夏に、彼は志望校をうちの大学から、音大に変更するつもりだと教えてくれた。





それは、あたしの部屋で准くんに中間考査の勉強を教えてあげているときだった。


「音大?」


「うん…」



「そっか…。准くんピアノもずっとやってるんだよね」


シャーペンを持つ准くんの綺麗な手を見る。



「音大だと、音楽の成績とコンクールの賞で推薦が取れるから勉強しなくていいし…」


准くんがあたしのいる大学を目指してくれるものとばかり思っていたから、あたしは寂しかった。



「勉強しなくていいしって…なんかそれって後ろ向きな考え方じゃない?」



「でも俺、勉強嫌いだし」


「だからって…嫌いなものから逃げてていいの?勉強は大事だよ。音大に行くにしても」


准くんはムスッとして問題集に向かった。



「うちの大学は、ラグビーだけじゃないでしょ?就職だってやっぱりそこそこの大学じゃないと…」




すると、准くんがはあってため息をついて、ノートの上にシャーペンを投げつけた。


パシッ…!


それからあたしを上目遣いで睨んで、




「花乃は俺の親か?」


って言った。




「…なんでそんな怒ってるの…」



「怒ってねーよ別に」



ってまたシャーペンを手に取って背中を丸める。



「推薦で行けたら三年なっても受験勉強しなくていいし…その方が…花乃と遊べるから花乃だっていいと思ったんだよ」


ってムッと唇を尖らせて、あたしを見ずにノートにペンを走らせる。



「遊べるし…って。そんなの…」


ってあたしはハッと笑った。


「頑張って勉強すれば、大学に受かってからいくらでも遊べるじゃない。…バカみたいなこと言わないでよ」



バタン!


准くんが問題集を乱暴に閉じて、


「どうせバカだよ」


って鞄にしまおうとした。


「そんなこと言ってないでしょ」


ってあたしは素早く准くんの手から問題集を奪った。



「言ったじゃねーかよっ」


「そういう意味じゃないでしょっ!」


「返せよ。帰るよもう!」


ってあたしが持ってる問題集を取り返そうと身を乗り出す。


あたしはサッと身を避けて、取られまいとする。



「ダメ!まだ終わってない!」



渡したら、帰っちゃう。准くんが。


准くんは力任せに奪いには来ない。本気で奪おうと思えばできるのに、そうしないのは、准くんの男らしいところだった。


だけど、その代わりに、


「ふざけんなよ。…自分だって推薦で決めて遊んでたじゃねーかよっ!」


って声を荒げた。



「あたしは、推薦取るために必死になって勉強したのよっ!あなたラグビーばっかで勉強なんてちっともしてなかったじゃない!」



「悪かったな。ラグビーバカで」



「『ばっか』って言ったの!准くんのそういう卑屈なとこ嫌いっ」



「俺も花乃の説教くさいとこダイッキライだよ!返せよ。花乃といたってちっとも楽しくねーよっ」


准くんはバッと問題集を奪って鞄にしまった。ノートも筆箱も次々に投げ込んだ。



気まずい空気が流れた。




『花乃といたってちっとも楽しくねーよ』



そう言ったことを後悔しているような顔をしていた。


だけどそれは、心にもないことを言ってしまった後悔じゃなくて…思わず本音が出てしまった後悔なの?




ずっと不安だった。



准くんはあたしが准くんを思うほどには、あたしを思ってくれていない。



だけど…あたしと同じ大学に行きたいって思ってもくれないのかな。



「准くん…頑張って勉強したら、同じ大学に行けるんだよ?准くんバカじゃないんだから」


あたしの方を見ようとしない准くんの横顔に話しかける。



准くんがカチャッと鞄を閉じて、



「ラグビーできないなら行ったって意味ないよ」



って呟いた。





『あたしがいるじゃない』とは、言えなかった。


怪我で辞めることになったときは、やっときつい練習から解放されるとか、花乃にたくさん会えるとか言って、明るく振舞っていたけど…



やっぱり、ほんとは続けたかったんだよね…ラグビー。それは、わかってるつもりだったけど…。


あたしが想像している以上に准くんはラグビーをまだ引きずってたんだ…。



「そうだよね。彼女がいるだけじゃモチベーション上がんないよね」



俯いてそう呟いた。


卑屈なのは、どっちだろう…。




「あたしも…准くんがうちに来てくれないんなら…誰かいい人見つけちゃおっかなー大学で」



心にも無いことを言ってしまった。


だって…寂しかったから。



しばらく、沈黙が続いた。



准くんが、『ごめん』って言ってくれる前の沈黙だと思っていた。



『嘘だよ。そんなこと言うなよ。花乃といたって楽しくないなんて言ってごめん』



そう言って欲しかったのに、沈黙を破ってあたしの耳に届いたのは、



「好きにすれば?」



っていう准くんの怒った声だった。



驚いて准くんを見ると、目が合ったとたん准くんはスッと目をそらした。


そしてそのまま鞄を持って立ち上がり、何も言わずに、部屋を出て行ってしまった。


そんなふうに突き放すような言葉を言われたのは初めてで…


あたしはショックで、ただ呆然と彼の出て行ったドアを眺めることしかできなかった。