長い睫毛。鼻筋の通った横顔。
付き合ってた頃はラグビーばっかりで、勉強が苦手だった彼。あたしはふたつ歳上だったからよく勉強を教えてあげたっけ。
ふと、彼が視線を上げた。
ドアのガラス越しに目が合って、彼がパッと席を立った。
にこやかにやって来て、ドアを開けると、
「こんにちは。鈴木さん…?ですよね。担任の宝です」
「花音の母です。いつもお世話になってます」
「いえ…。今日はお忙しいところありがとうございます。どうぞ」
って席に案内してくれた。
「歩いていらしたんですか?」
ってあたしの日傘を見て、
「坂がきつかったでしょう」
って爽やかに笑って、体を少し傾けて入り口の低い所に設置されたエアコンの温度を下げてくれた。
スーツ姿の何気ない仕草が、いちいち格好良く見える。
強がっていたけど、悩みや隠し事がみんな見えてしまうような不器用な歳下の彼だった。
それが今は翳りのない笑顔で…本当の辛さや悩みは、もう表には出ないほど大人になったの?
営業用にしてはあまりに温かい優しい笑顔に、緊張がほぐれていくのを感じた。
なんて、あったかく余裕のある大人の男に成長したのだろう。
それとも、これは仕事だから、そう見えるの?
彼女には、今でも不機嫌な態度を取ったりして甘えているの?