お母さんにも言われたのに。
先生の奥さんになれるなんて、思っちゃいけない。そんな期待は必ず裏切られるに決まってる。
こんな何もできないあたしと一緒になろうなんて…いくら優しくても…責任感が強くても…。
こんなふうに、先生の家に遊びに来れるようにしてくれただけで、充分幸せ。
贅沢だよ。
これ以上、先生に期待したらバチが当たる。
なのに…
あたしは、いつから、
こんな欲張りになっちゃったんだろう。
昔は、
目が合うだけで嬉しかった。
おしゃべりできるだけで嬉しかった。
ハグしてくれたら、それだけでもう一生生きていけるなんて舞い上がってた。
なのに…。
先生と目が合って、先生が、ん?どしたの?って顔をする。
こんなとき、体が不自由じゃなかったら、今すぐ先生に抱きついてる。
気持ちはもう先生の胸に飛び込んでる。
抱きついて、胸に顔を埋めて隠してしまえば、もう恥ずかしさを超えられるのに。
そうやって自然に触れ合うことができるのに。
あたしにはそれができなくて…
「抱き締めて」なんて
恥ずかしくて言えなくて…
ただ、
「先生…」
って呼ぶことしかできない。
先生としばらく見つめ合う。
シンとした部屋にお鍋のグツグツいう音だけが響く。
ちょっと酔ってる先生は、目が潤んでて、唇もいつもより赤くて、藍の着物の合わせから少し見える胸元も赤くなってて…。
一度だけ、お母さんが留守のときに、エッチなことをした…あのときに見た、赤いライトに染まった先生の裸の胸を思い出す。
胸がドキドキする。
先生が真面目な顔して、あたしの唇に視線を落とす。
期待に胸が高鳴る。
目を伏せて、あたしのうなじに手を回す。
先生の顔が近づいてきて、あたしは目を閉じる。
先生の熱くて柔らかい唇が、チュッてあたしの唇を包み込むように吸って、離れる。
ああ…もうダメ…///
先生が照れたように微笑むのをあたしは上目遣いで見る。
「なぁにそんな欲しがってんだよ…」
って呟いてまたキスをしてくれる。
欲しがってるなんて言われて恥ずかしくてたまらないけど、恥ずかしがる暇もないほど、先生が何度もキスしてくれるから…
好き が 恥ずかしさを超えて…
キスの合間に
「せんせ…ぇ…っ」
って甘えた声を出してしまった。
すると、先生があたしをバッと奪うように男らしく抱いて、今度は大人の深いキスをくれた。
恥ずかしい。でも大好き。
うなじから髪の間に指を入れて髪をくしゃくしゃにされる。あたしの手を取って優しく先生の背中に回してくれる。
強く抱きしめたいのに、力の入らない不自由な手がもどかしい。
そんなあたしの分までと言わんばかりに、ぎゅっと強く抱き締めてくれる。
もっと強く…もっと近くに…先生を感じていたい。もっとずっと深く、先生と繋がっていたい。
離れられない。離れたくない。
お迎えの時間なんて永遠に来なければいいのに…。