アポロン戦、終結!!
長きに渡る(いや、ホントに長かった・・・ww)戦いに、今、終止符を打つ!!
ライナは、いや、ライナ達は、“究極の魔法”を、アポロンに放つ!!
幻想物語
第7章 第16話
-私が、アポロンだ!!-
剣は、未だ深々と、お互いの胸を穿っていた。
お互いの視線に映るのは、相手の胸から生える、柄と鍔。
そして、苦痛に歪む、相手の顔。
時間が経てば経つほど、その表情は濃く、重く、苦しいものになっていく。
それは、神であろうと例外ではない。
心臓を、しかもその中心を、刃が貫いている状況下で、如何に神であろうと、笑えるはずがない。
そしてそれは、ヒトである、ライナも、同じだった。
いや、むしろ、ヒトであるからこそ、このような状況下で笑う意図が分からない。
冷や汗がダラダラと滴る中、アポロンが、重い口を開いた。
「くっ・・・そ・・・。私が・・・このような・・・場所でっ・・・!!」
悔しさと苦しみが入り混じった表情のアポロンに、喜びと苦しみが入り混じった表情で、ライナは答える。
「悪いな・・・・・・カミサマ・・・!!この大一番・・・俺達人間が・・・もらったぜ・・・!!」
へへっと唇の端を吊り上げるライナは、その笑みを浮かべたまま、刀を、アポロンの胸から勢いよく引き抜いた。
ずりゅっと気味の悪い音を立てて、『天創宝剣(ヴェルグ・オブ・ケルディア)』が、アポロンの胸から引き抜かれ、朱に染まった白い刀身が、陽光を浴びる。
ライナが刀を抜くと云うことはつまり、後方へ下がるということ。
当然、お互いの距離がゼロに近い状態で、腕だけを動かして剣を引き抜くのは不可能だ。
とどのつまり、ライナは自身の体から剣が抜けていく苦痛に耐えねばならない。
こちらも、ずりゅっと音を立て、朱に染まる黒の刀身が、妖しく光る。
ライナは一瞬この上ない苦痛に叫びそうになったが、それを懸命に堪え、倒れそうな足で、なんとか後ずさる。
ある程度-目測で、アポロンの剣撃が届かない-距離をとると、ライナの体は、緊張の糸が切れたのか、フッと脱力した。
足がガクンと折れ、体勢を立て直す間もなく、後ろへと倒れる。
だが、ライナの体が地に着くタッチの差で、ガイアがそれを受け、止めた。
「おっと、英雄を地に伏させるわけにはいかないよねぇ」
などと、ニヤニヤ笑いながら、ライナの肩を持ち、体を支えている。
「おい・・・おい・・・ガイア・・・。ここは可愛いヒロイン・・・だろ・・・?」
ライナも、今できる最大限の皮肉で、ガイアをせせら笑った。
「ライナさん!」
「ライナ君!!」
「ライナッ!!」
「ライナさんッッ!!」
流星、アスカ、バレット、イディンの4人が、血相を変えてライナの下に駆け寄ってきた。
胸の中央に穴が空いてる状況で、心配しない人間などいるわけがない。
アスカに至っては、目に大粒の涙が浮かんでいる。
「ライナ君・・・!!大丈夫・・・なの・・・!?」
涙をボロボロと零すアスカに、ライナは優しく答えた。
血で汚れた手で、ポンと頭をなでながら。
「泣くなよ・・・アスカ・・・。別に・・・死ぬわけじゃ―――」
『ねぇよ』。
そう言って、アスカを安心させるつもりだったライナは、そのアスカの目の前で、ゴフッと血を吐いた。
ゲホゲホと咳き込む度に、口の端から血が垂れる。
「ライナ君!?ライナ君ッ!!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ライナの名を呼び続け、最後に、ガイアをキッと睨んだ。
「ガイア君!!何でライナ君を助けないの!!?このままじゃ・・・死んじゃうよ!!」
アスカの必死な叫びに、ガイアはニッと柔らかな笑みを浮かべて答える。
「大丈夫だよ、アスカちゃん。“もうすぐ”だからさ・・・」
「もうすぐ・・・!?どういうことッ!?説明してよ!!!」
声を荒げるアスカと、それを必死でなだめるガイア。
2人の間の温度差が、より苛立ちを募らせていく。
ガイアがへらへらと笑っているのだから、なおさらだ。
遂に限界を越えたアスカが、ガイアに向けて平手打ちを放とうとしたとき、その場にいた全員の無線機に、音声が飛び込んできた。
[はいはーい、そこまでだよん、アスカちゃん❤]
可愛げたっぷりな声が、全員の耳に入ってくる。
「えっ・・・?この声って・・・」
[そそ。せいかーい❤パールデルだよ~]
遠く離れた場所にいるにもかかわらず、今にも表情が浮かんできそうな、ギャルのような喋り方とテンションの、40歳。
医療機関総司令、パールデル・アルフォードの声が響いた直後、“それ”は起こった。
ライナの、ズボンの右ポケットが、それこそ陽光のように明るく瞬き始めたのだ。
そこにいた全員-唯一、ガイアを除いて-が、驚きに満ちた表情を浮かべた。
当の本人のライナでさえ、何が起こっているか、把握できていなかった。
そして、輝きがより一層強くなった後、ライナの目の前に、文字が浮かび上がった。
それは、魔法の詠唱。
『白濁の信者、霊光の愚者。死を遠ざけし再臨の息吹。生を呼び込む再誕の賛歌。白き血雨と黒き汚物。地を這う屍、天舞う聖女。死に近づきし愚者の躯、生を捨てし敗者の躯。廻り、巡り、帰し、「生」へと戻れ』
ライナがそれを目で追って読み終わるのとほぼ同時に、魔法が発動した。
エターナル・サイフォス
『聖なる再生』
ライナやガイアが使った時とは比べ物にならないほど、巨大な光が、ライナの体を包み込んだ。
一瞬で、ライナの体は見えなくなり、ライナ自身は、自分の体に起こっている変化に、驚愕した。
痛みが一瞬で引き、同時に、血を失ったことによる眩暈と息苦しさの両方が、どこかへいってしまった。
全て、一瞬で、だ。
光は、現れて僅かに5,6秒経って、即座に収束した。
後に残されたのは、皆の驚愕と、歓喜の声。
「なん・・・で・・・?」
一番驚いているのは、他でもないライナだ。
一瞬で光に包まれたと思ったら、次の瞬間、自分に空いていた巨大な穴――もとい傷が、たちまち塞がっていたのだ。
自身の、破けた服の間から胸の表面に軽く触れ、今起きた現状に、ただただ唖然していた。
「物体干渉型遠隔魔法・・・!!しかも、発動条件添付の、完全詠唱魔法で・・・!!」
[これでも医療機関の総司令やってるからね❤『裂傷殺し』の異名は伊達じゃないよん。君がピンチになったトキに発動するようにするの、ちょっと大変だったんだよ?]
フフフと高いトーンの声で笑うパールデルからは、『総司令の威厳』というのものがまるで感じ取れない。
「・・・ガイア君、物体干渉型遠隔魔法って、何・・・?」
キョトンとした顔でライナの傷のあった場所を眺め、視線をガイアに映した。
その問いに答えようとガイアが口を開くと、その声に被さる形で、パールデルの声が聞こえてきた。
[生命を宿していない物体に、特殊な魔法陣を刻んじゃって、その効力で物体に魔法発動能力を与える魔法、だよ❤こっちを離れる前にライナ君に渡した『お守り』、あれに魔法をかけといたんだ]
いたずらをした子供のような無邪気な声で、軽々しく偉業を語るのだから、すごいの一言に尽きる。
「あ、ありがとうございます・・・」
ライナが低姿勢で礼を言うと、無線の向こう側のパールデルは、あはっと笑みを零した。
[礼なんて言わなくていいよ。それより、“まだ終わってないんでしょ?”]
語尾だけが、異様なほど緊迫感を持っていた。
その声でライナは、イメルダから託された“作戦”を思い出した。
「そうだ・・・まだ・・・!!」
ライナの視線は、胸から血を流して尚、倒れないアポロンに向いた。
「私は・・・私は・・・!!」
「すっげーな。まだ倒れねェのかよ」
凄みの利いた声で『瀑焱宝剣(フィアンジャ・オブ・グラン)』を握り締める。。
同様に、イディンも、アスカも、それぞれの宝剣を構え、再度戦闘態勢に入った。
だが、ガイアはスッと手をかざし、それを制止させた。
「大丈夫だよ。直に終わるから」
これまた意味深な台詞を吐くガイアを、傷が完治したライナはフンと鼻で笑った。
「いい加減、その謎っ子キャラやめろよ」
「いいじゃん別に。これも僕のキャラだよ。アイデンティティーさ、アイデンティティー」
「随分とウザいアイデンティティーだな」
ニッと笑うガイアを、ライナはあっさりと流し、再度、アポロンに視線を向けた。
ゴボゴボと口から血を噴き出してなお、アポロンは倒れない。
神故の威厳か、並々ならぬ強い意志か、そのどちらかが、今のアポロンをそこに立たせていた。
「いい加減倒れろよ。心臓に穴、空いてんだぜ?」
その問いかけに、ゼェゼェと肩を上下させるアポロンは途切れる言葉で返した。
「黙れ!!黙れ黙れ!!私は神だ!!神は、どんなことがあろうとも、倒れてはならないのだ!!」
やや錯乱気味に叫ぶアポロンに、ガイアは嘲笑した声で言った。
「神って人間を統治する存在だよね?その支配している存在に斬られ、激昂してる時点で、アンタは神なんかじゃないのさ!アンタに、『アポロン』なんて名は大き過ぎだね!!」
「黙れ黙れ黙れ!!!間違った人間を正す私こそがアポロンなのだ!!私がアポロンなのだ!!」
聞き分けのない-それは当然なのだが-アポロンに、ガイアとライナはほぼ同時にやれやれと溜め息を零した。
「話しても無駄だぜ。さっさとやるぞ、ガイア!!」
「了解!」
2人は、駆け出す直前、あることをした。
ライナは、アスカの。
ガイアは、イディンとバレットの。
それぞれの宝剣を手元からかすめ取り、駆け出したのだ。
そのあまりに素早い手つきに、全員抵抗すらできなかった。
去り際、2人が『ちょっと借りるよ』と言った言葉だけが、そこには残されていた。
「えっ、嘘・・・」
「おいガイアッ」
「な、なんで・・・?」
呆けた顔の3人が、ライナとガイアに疲弊に満ちた不満をぶつける。
その声が2人に届いたかは定かではないが。
2人は高速で駆け、アポロンの周囲を廻る。
速く、速く、この上ないほど、速く。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ。
間髪入れずに4つの鈍い音が響き、消える。
アスカ達は一瞬、宝剣がアポロンに刺さる音かと錯覚したが、すぐにそれは間違いだと認識した。
アスカの宝剣がフルートの形状である以上、刃のように扱うことは不可能だからだ。
そして、その音の正体を明らかにするかのように、ライナとガイアが、アポロンを中心に対極の方向に現れた。
それぞれの目の前には、『天創宝剣(ヴェルグ・オブ・ケルディア)』と『瀑焱宝剣(フィアンジャ・オブ・グラン)』が地に刺さっていた。
浅く、しかししっかりと。
「何・・・?」
痛む体とぼやける視界の中、必死で周囲を見渡し、状況を確認するアポロン。
アポロンの目の飛び込んできたのは、アポロンを中心とした4方位の地に突き刺さる宝剣。
測ったようにきっちりと等間隔で刺さり、正方形を作る、四宝剣。
それが何を意味するかは、アポロンにはまるで理解できなかった。
「理解できないだろうね、アポロン。君みたいな、仲間を大切にしなくなった奴には、一生ね」
ガイアはアポロンをこの上なく嘲笑し、バンと地に掌を叩きつけた。
そしてそれは、反対の方向にいたライナもとった行動だった。
2人の体から魔力(ディーガ)が溢れ出し、宝剣四つを結んでいく。
それと同時に、それぞれの宝剣から立ち上る、鮮やかな色の柱。
蒼、赤、白、黄。
尽きることなく出続ける、膨大な量の魔力(ディーガ)は、次に魔法陣を創り出した。
最初に、アポロンの足元――もとい地面に。
次に、アポロンの頭上に、3つ。
それらも、蒼、赤、白、黄の4色に彩られていた。
それらを見届けたライナとガイアは、全くと言っていいほど同時に詠唱を唱え始めた。
「「大いなる亜空の覇者、偉大なる天空の支配者。陰と陽を二分せし、我ら民の最後の証。月下の元に集いしは、月光を浴びし絶対の強者。四者が抱く、四の魂。それらが紡ぐ、四の意志。一つに紡ぐ、我らの導(しるべ)。無数に紡ぐ、我らの希望。分かち、散り、全てを封じよ!!魅惑の音色、灼熱の焔、雷動の騎士、陽極の覇王。違い交わり、天を突け!!!!!!」」
詠唱が終わると、四つの魔法陣はより荘厳に輝き、万物を照らした。
アポロンを浄化せんと、巨大に、圧倒的に。
「さぁ、シメだぜガイア!!」
「あぁ、分かってる!!」
2人の声が、天空にこだました。
「「四重特殊魔法陣、【封天】、発動!!!!!」」
ルルージュア・クアディーナ
「「永封覇皇四陣!!」」
苦しみに悶えるアポロンはそれでも倒れない。
それどころか、ライナに向け、侮蔑の言葉をぶつけた。
「何の茶番だ!!何だこれは!!!」
やや息の上がった声で、ライナはその罵声に応じる。
「宝剣四つを媒体にして、亜空間の扉を開け、魔法陣内に存在するもの全てを、この世界から抹消する!!!パールデル・アルフォード、ヴォルス・ログル、イメルダ・アイル、ラバル・キルドスの4人が理論提唱をした、最強にして究極の封印魔法さ。いくらアンタでも、亜空間開閉魔法ってのは知らねぇよなァ!!!!」
魔法陣に触れる手に、より一層力が入る。
一番上――白色の魔法陣が瞬き、直後、巨大な光の柱が、アポロン目がけて落ちてきた。
「がっ・・・あぁぁぁ!!!!!!!」
その力に呼応して、魔法陣から落ちる光が、更に濃く、強くなる。
「おのれ・・・おのれおのれェェ!!!!人間・・・風情がァァ!!!!」
「大正解だよ、アポロン。僕達人間がいくら頑張ったって、アンタを殺すのは不可能さ。だから、『封印』って方法を選んだんだ。永遠の暗黒、訪れない死の中で、苦しめ!!!!」
光が更に濃く、重く、荘厳に瞬き、アポロンの姿を覆い隠していく。
いよいよ、封印の時が訪れたのだ。
亜空間の扉が開き、アポロンを、封印する。
「じゃあなァ・・・・・・アポロン・・・。“後のこと”は、俺らに任せろよ」
その、ケルベロスの意味深な言葉に、アポロンが一瞬微笑んだように見えたが、それは光による錯覚に見え、苦痛に歪んだ表情が、そう見えただけに過ぎなかったのかもしれない。
「堕ちろ・・・亜空の世界に―――!!!!」
「く・・・そぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉおぉ!!!!!!!!!」
光の強さが最大になり、直後、ゆっくりと収まっていく。
魔法陣がスゥっと消え、それにやや遅れて、宝剣もスゥっと消える。
そこにいたはずの人影は、もうなかった。
まるで、そこには最初から何もいなかったかのように、静かだった。
吹いた風が、差す光が、やけに寂しかった。
ライナにはそれが、アポロンを見送る、別れの風光にしか、感じ取れなかった。
悲しくなどないはずなのに、悔しくなどないはずなのに、涙が、流れた。
止まらなかった。止め方を知らないように、流れ続けた。
何故か、この世の理から奪ってはいけないものを、奪ってしまった気がしたからだ。
これが勝利なのかと、ライナは何度も、何度も自問した。
だが、現実は変わらない。
これが、勝利なのだ。
この、胸の中に広がる、たまらなくモヤモヤした感触が、勝利なのだ。
嬉しいはずの勝利が、何故か、たまらなく虚しかった・・・・・・。
最終大戦、勝利。
対アポロン戦、終結。
第7章 第16話 完
最後だけ、満足のいく仕上がりになりましたが、そこに行き着くまでのプロセスがひどい・・・
ひどすぎる・・・wwww
やっつけでイライラしながら書いたんで、恐らく誤字脱字まみれだな、こりゃwww
とりま、これで本当に、アポロン戦は終わりです!!
もう引っ張ったりしません!!ww
第一部も残すところあと2話!
1話はエピローグなので、実質は1話です!!
頑張りますよ、小説も勉強も!!
では、あでゅーо(ж>▽<)y ☆