前略 X様

NHKワールドで「熱中時間」を見ていたら急に画面が切り替わって北朝鮮がミサイルを発射したという緊迫感のあるニュースになった。
予想通り迎撃は無く、何事も無く終わったが、しばらくの間は特別番組が続き、同じような事をダラダラと話し続けていた。
KBSワールドでは日本と同じような感じの緊迫感のあるニュースが流れていたが、CCTV新聞チャンネルは海外の一般ニュース並みの扱いだった。
つまりは大騒ぎしているのは日本と韓国だけなのだろう。

昨日、誤探知のニュースが流れ、後にその原因が解説されて思ったのだが、日本は平和ボケしているだけではなく、国力が劣化しているかも知れないと思った。
第一に、システムのエラーというよりも、伝言ゲームによる誤報だったということ。
これは防衛に関わる官僚の個人と組織能力の劣化である。
第二に、そのような情けない理由による誤探知騒ぎだったのに、政治家が包み隠さず公表したこと。

これは日本の政治家の判断力が劣化している証拠であると思われた。
大金をかけて迎撃ミサイルを準備しておきながら当たらないかも知れない等と言うのは正直過ぎるのを通り越して単なるバカだ。
日本の政治家には虚々実々の駆け引きが出来ないようなので、生きているか死んでいるかも判らない瀬戸際戦術を取る独裁者にも敵わない。
もっと緊張感を持ってやってくれないと困るのだが、ニュースに出て来る街角でインタビューを受けている日本人の多くは平和ボケそのものなので、政治家がこんなレベルでも仕方ないのかも知れない。

それで今回は日本のマスコミも煽りまくっているが、では戦略的方針としてどうすれば良いのかという部分にはあまり触れていない。
ここが問題なのだが、日本はどういう軍備をするべきなのかという議論が出来ないのである。
それどころか軍備そのものをするべきではないという意見まで罷り通っている。
国民国家で国防方針に関する議論がろくにできないなんて、そんなバカな国は他に無い。

北朝鮮のミサイルにマスコミが大騒ぎしているのは、そういう意味では警鐘を鳴らそうとしているのかも知れないが、その鳴らし方を見ているとまことに心細い。
製造業ではトヨタ式に「なぜ、を5回繰り返せ」とよく言われるが、国際政治や国家の安全保障、国民の安全という事に関して日本のマスコミが「なぜ」を5回繰り返すことはない。
それは日本のマスコミに改善や進歩というものが無い証であり、改善や進歩が無いのはまともな競争相手がいないことの証である。
今、ネットの世論や情報網がその競争相手に育ちつつ有る気がするが、こちらの方はまだまだ発展途上で、旧来のマスコミと同じくらいの影響力は無い。

それはテレビや新聞の世論とネットの世論を比べてみればよく判る。
もともとネット世論は幼稚で過激になり勝ちだが、北朝鮮のおかげでますます「9条廃棄、再武装当然、核武装も辞さず」が当然という雰囲気になっている。
だが新聞やテレビしか見ていない世代はとてもそこまではついて行けていないだろう。
そもそも日本には北朝鮮に舐められても何も感じていない人の方が多い。

それどころか、多くの日本人は日本が北朝鮮にバカにされて強請られている事すら気づいていない。
とは言え、北朝鮮には独力で戦争をする能力は無い。
拉致をするか、テロをするしか能が無い。
そういう意味で、日本領土で人が住んでいる所に外国から侵略軍が来るという心配は殆ど無い。

だが侵略されないからと言って、外国からの暴力に対して安全であるという時代ではない。
特に北朝鮮がますます際どくなり、中国が大国意識を振り翳し、韓国も油断できず、台湾が敵に回り、アメリカが東アジアから手を引きつつある今はそうだ。
僕はよく中国人の大部分は田舎者だと言うが、今は日本人の方が国際的田舎者になりつつあると感じる事も多い。
本当に、日本が平和な田舎のままならどれだけ良かったかと思うが、豊かな暮らしがしたいなら、それと引き換えに田舎者であることを捨てねばならないのだ。

話は変わるが、最近始まったNHKの「プロジェクトJAPAN」を興味深く見ている。
今日は台湾の話だったが、この僕も今まで聞いた事のない、かつて日本人だった台湾人の老人の本音がとても興味深かった。
日本があのような惨めな敗戦の憂き目に遭わなければ、彼らも今頃は沖縄の古老のようになっていたであろうにと思うと、日本の政治的失敗のツケはまことに罪深いと思わざるを得ない。
だがこの仮定は意味が無いので、戦争に負けた日本がひたすら悪いという国際的な見方を政治的に受け入れざるを得ないのだろう。

そして台湾統治を単純に成功だったと能天気にも思い込んでいる者は、一つ是非とも考えておかねばならないことがあるということに気づかされた。
いかに文明化しようと、皇民化して同化しようと、それだけを以って恩を施したと思ってはならない。
何故なら台湾人も朝鮮人も、大陸の中国人と同じように日本人にバカにされていて、差別された記憶が今も鮮烈な記憶として残っているからだ。
これは原爆のように後に尾を引くから、単なる殺し合いの記憶よりもひょっとするとタチが悪いかも知れない。

かつて日本は中国と中国人をバカにして、泥沼の戦争に引きずり込まれた。
「ルールを守らず、約束を守らない中国人に一撃を加えて反省、萎縮させ、日本の都合の良い秩序を回復する」という帝国軍人の発想は、中国人を腹の底からバカにしていなければ生まれようがなかった。
そして現代でも、中国に進出して失敗している企業経営者の多くは中国や中国人をバカにしている。
日本人からこの発想が抜けない限り、僕は日中の不幸な憎しみ合いの関係は続くと思うのだ。

日本人は特に匿名性が強いネットの世界では中国人をバカにしている。
2chやYahoo掲示板を見ていると、中国人をバカにする書き込みばかりだ。
単にバカにするだけではなく、事実を以って中国人の面子を粉砕し、例えばチベットという中国の痛いところを突いて政治的にも追い込もうとする。
それが中国人には悔しくて悔しくて仕方が無いから、何とか日本人に意趣返ししようとする。

その象徴が「フリー・チベット」と言われると、バカの一つ覚えみたいに「フリー・琉球」と繰り返す愚かな中国人の群れである。
沖縄は現在の日本領の中で、大日本帝国の失敗の為に最も多くの重い犠牲を払わされた。
それを知っている本土人は沖縄には格別な配慮をしようとするが、アメリカに占領された期間が長く、軍事的な要地であることから彼らにとって幸せな天地を日本の力で築き上げることがいまだにできず、本土人は沖縄にはいつも心に負い目がある。
僕は個人的には早く道州制に移行し、沖縄県を琉球州として高度な自治権を与え、例えば香港のように一国二制度的に発展可能な道を用意してやるべきだと思うが、そのためには先ず日本の中央政府がもっと政治的にしっかりしていなければならない。

話が逸れたが、既に同化して久しく、今すぐに独立させるには無理が有り、民主政治が定着している沖縄を、一党独裁の元に宗教まで踏みにじって蹂躙されているチベットと同一視するのは無理が有る。
しかし沖縄のことを言われると日本人としては正直心が痛い。
自由にしてやりたくても、日本全体がアメリカに属しているも同然なので、それもできない。
そういう所を突いて来る中国人は卑劣という一語では言い表せないくらい憎たらしい。

だがそういう相手がムキになるような意趣返しは、言わば中国人の得意技であるから、簡単に激昂してはいけない。
戦前の日本も、そういう卑劣な意趣返しをされて己を見失い、中国との泥沼の戦争に引きずり込まれたのだ。
そもそもが、日本人が中国人をバカにし過ぎているので、彼らも売られた喧嘩を買って、得意の悪口で日本を揺さ振っているのだ。
要するに何が言いたいのかというと、幾ら相手が卑劣で好きになれなくても、バカにして見くびってはいけないということだ。

中国をバカにして破滅した日本は、子々孫々まで中国に嫌がらせをされるだろう。
しかし日本人は前と同じ手に引っかかってはならない。
相手はしたたかで、悪口を言わせたら世界トップレベルの中国人なのだ。
日本人は中国人をバカにしている暇が有るなら、己の子孫が更なる不幸に晒されないよう努力し続けなければならない。

早々