Confession Del Viento
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此岸の家

本作品は、平林たい子賞受賞の日野啓三氏の私小説作品です。日野氏と言えば中期で脂の乗った「都市幻想小説」を書いてきた作家として有名ですが、初期のこういった作品のあたりでは、主に私小説を書かれていました。「向う側の家」ではなく「此岸の家」、すなわち「現実の家庭」。生活とは外貌が如何に煌びやかに見えても、それは非常に脆く不安定で、絶えずより良いものを創り上げてゆく努力をしなければならないということを、絶妙な渋く苦い乾いた文章で表現しています。一人称小説である為、三人称或いは「男」という主語が多く用いられた「都市幻想小説」群よりも、筆者の核により作品自体が接近している印象があり、戦後期高度経済成長期における家庭の雰囲気というものを、皮膚に染み入る形で感じられました。しかしながら、「都市幻想小説」へ至る萌芽も本作品には見られます。決して国際結婚の難しさのみを提示した作品ではなく、同国人との結婚生活でも、生活というものにはこういった困難が生じるもので、普遍性を感じる作品でした。