ガチャンガチャン!
うつ伏せのまま両手に手錠を掛けられた満利雄はそのままパトカーに乗せられ千葉県警に護送された。アッという間の出来事に、もはや満利雄の思考はストップしたままだった。
「おい白崎!大丈夫かおまえ?」
刑事の問い掛けも耳に入らず満利雄の目は虚ろで焦点は合っていなかった。パトカーの窓を流れる景色に自分の不運な人生を心から恨んだ。
「25番調べだ。起きろ!」
翌日、留置所で一晩を過ごし落ち着きを取り戻した満利雄の取調べが始まった。両手錠に腰縄を巻かれ取調べ室まで連れて行かれるその姿はまるで飼い犬だった。
「おはよう白崎!よく眠れたか?」
キツネ目の刑事がにこやかに話しかけてきた。
(笑顔のデコスケほど信用できない人間はいねえ。)矢崎の口癖だった。
留置担当の警察官は手錠を外され腰縄をパイプ椅子に巻き直し取調室を出た。そして部屋には満利雄とキツネ目の刑事の二人になった。。
「白崎、吸うか?」
刑事はハイライトを差し出した。
「ああ、すんません。」
丸一日吸わなかった煙草の煙はすぐに満利雄の脳内を覚醒させた。
(ボーっとしてちゃ駄目だ。ここからが勝負だ)
満利男は煙を吐き出すと気を引き締めた。
「なあ、白崎よ、」
「何スか?」
「こっちは全て分かってるからオマエさんに逮捕状が出てんだ。素直に話せよ。あんまり訳分かんねぇ嘘こきやがったらオマエさんの刑が長くなるだけだぞ。」
キツネ目の刑事はそう言うと満利雄の目をじっと睨み付けた。
「全部知ってるなら聞く事なんて無いじゃないっすか・・・」
水野も逮捕されたのか?だとしたら何処まで話してるのか?それが分からない今、満利男は黙り通すしかないと心に決めていた。
「まあいい白崎、しかしお前もツイてねえ野郎だな。これでムショに逆戻りだな。まあ仕方ねえな、それなりの事やったんだからよ。なぁ?」
「さぁ・・まあ、こんな物ッスよ俺の人生・・・」
「しかしよく出来てるなこの偽造免許やら何やら・・・これオマエが作ったんか?白崎。」
「は?・・・よく分からないッス。」
「分からないだぁ?テメエみたいなムショ帰りのクソ野郎にこんな高度なマネできっこねぇよな!おい、白崎!水野照明の居所知ってるんだろ!?吐けや!」
(水野は逮捕されていない!)
ガチャン!
キツネ目の刑事は机を蹴り上げると満利男の胸倉を掴み耳元で話し始めた。
「よぉ・・オメエはもう檻の中なんだよハイエナ君。詐欺だけならムショ行ったって大した事ねえじゃねえかよ・・別の罪は握ってやってもいいんだぞ・・2年くらいは早く懲役終るそ!2年がどんだけ長いかオマエが一番分かってるよなぁ白崎!」
「・・・知らないッス。マジで・・俺だってムショはまっぴらだし2年も早く出られるなら喋りたいっすよ。」
「ほぅ・・オマエは水野照明に騙された上にヤツを庇うのか?」
(・・・騙された?・・・騙された?・・・どういう事だ!?)
「そのツラを見ると知らない様だから教えといてやるよ白崎!?今日の水野照明の家宅捜索で何が見つかったと思う?」
キツネ目の刑事はニヤニヤと笑いながら満利男に煙草の煙を吹きかけた。
「・・・な、何が・・見つかったんスか刑事さん?」
満利男の鼓動はこれ以上無い程に上がり始めた。キツネ目の刑事は煙草をもみ消すとゆっくりと視線を上げて話し始めた。
「水野照明の家の庭からオマエが成りすました今井新之助の白骨化した遺体だ!」
(!!!!白骨化した・・遺体・・??)
満利男の思考は金縛りにかかった様に完全に停止した・・・
「おいハイエナ君まだ意味が分かって無い様だな?今井新之助の遺体は今、検死中だが、あの腐敗具合から見るとかなり年数が経ってる。恐らく水野照明は今井が身寄りがいないのを知って今井を殺し自分の家の庭に埋め、時期を待って自分の証券会社に眠ってる今井新之助名義の1億円を引き出そうと駒を探していた。そこでお馬鹿な白崎満利男クン君が抜擢されたって訳だ。お分かりかい、ハイエナ君?」
「・・・」
「駄目そうだな白崎、まあ今日はこれくらいにしてやる。明日から又みっちり絞り上げるからな!」
キツネ目の刑事は満利男の椅子から腰縄を解くと留置担当の警官を呼び寄せ満利男を引き渡した。
「おい25番、大丈夫か?」
留置担当の警官の問いかけは満利男の耳には届いていなかった。
「・・・殺してやる・・殺してやる・・・」
満利男の呪いの様な呟きは一晩中留置所に響き続けた・・・
END
エピローグ
マレーシア・クチン 現地時間PM18:00
「あー又、下がった!このクソ株が!」
男はデスクトップのパソコンの画面に向かって怒鳴っていた。
コンコン・・コンコン・・・
「ミスターイトウ?ルームサービスです」
「はい、どうぞー」
ホテルマンの運び込んだ朝食は贅を尽くした最高の物だった。
「さすがヒルトンだね日本でもマレーシアでも最高のサービスだね。」
男はホテルマンにチップを渡すとステーキに齧り付き再びパソコンの前に座った。今日の日本の株式市場は軟調だった。中国のバブル崩壊の煽りを受けての大暴落だった。
「お!ソフトバンク上がってきたな・・でもNTTがこんなに下がっちゃしょうがないな・・・」
男はステーキを食べ終わるとマールボロに火を付け、窓に広がるクチンの海を眺めた。
「まぁ株も人生もリスク管理が一番大切って事だな・・そして犯罪もしかり・・」
男はイトウ名義のパスポートに写った自分の真剣な顔を見ながら笑いが止まらなかった。