タモ入れの助っ人を快く引き受けてくださったルアーマンの方は、釣り座前の離れブロックにわたって獲り込み体勢をとって待機してくれています。

「デカい。デカいですよ。見たことがないですよ。こんなデカいのは。」

 私も同じ気持ちです。寄せられて、足元でゆうらりと身をくねらせて舞うヒラスズキを眺めつつ、心の中では「鈎(はり)外れしてくれるなよ」と穏やかならぬ、祈らんばかりの思いで、竿を持つ手に力を込めます。

 観念してゆっくりと浮き上がってきたデカヒラスズキは、最後の抵抗とばかりにエラ洗いの跳躍。ドッボンという大きな音がして、白い泡を立てて波紋が広がります。タモ網の方に竿の操作で誘導しようとしますが、重すぎてなかなか思うように導けません。

 グロッキーになって動きはスローモーで、パワーも尽き果てているので、「落ち着け。落ち着け。」と自分に言い聞かせて、頭から網に突っ込んでいくように、右に左に泳がせながら方向転換をさせて、ようやく構えてもらっているタモ網の方に進ませ、頭を突っ込ませることができました。

「\(^_^)/(=やった~)。ありがとうございます。ハアハアハア。ゼイゼイゼイ。」

 肩で息をしつつ、感謝の言葉を述べます。

 夢見心地の数分間でした。本当に、夢じゃあないかしらと思わせられる、スリリングで、エキサイティングで、アンビーバブルな、興奮と感動に満ちたファイトの至極の喜悦の数瞬でした。いや、夢以上の現実です。

 釣りにはまり、のめり込んだ初心者の頃、こんなファイトシーンを将来演じるようになるとは、まさかのさかの夢でした。夢に見たこともないようなビッグ・ファイト。せいぜい、50㌢のグレや黒鯛(チヌ)をゲットするのが大きな夢だったのですが、地道に我が趣味の世界を広げ、深め、道楽の世界まで到達させると、夢見たこともないような現実、夢見心地の境地の極楽へといざなってもらえるのだと悟りました。

 タモ網を手渡してもらって、柄を手繰って引き上げようとしますが、重すぎてなかなかよう引き上げません。渾身のファイトで力を使い果たした老体には、なかなか厳しい仕事ですが、なんとも嬉しい重労働。ひいひい言いながらも、どうにかこうにかブロックの上にまで運び上げることができました。

「う~む、デカいですねえ、これは。よう切れんかった。奇跡ですねえ。釣れる時は釣れるもんなんですねえ。完全にまぐれです。」

 驚嘆と感嘆の言葉がほとばしり出ます。灯台下まで、ブロック上の凱旋ロードを、タモ網と頑張ってくれた愛竿を大漁旗の如く高く掲げながら、誇らしい気持ちでゆっくりと渡ります。

 地べたに置いてじっくりと眺め入ります。先日釣った81㌢よりも、一回り大きく、体高もあります。でっぷりと太ったグラマラスなナイスボディの銀鱗にうっとりと見惚れてしまいます。本拠地であるここのポイントで釣り上げたヒラスズキの最長寸は、84㌢。これを上回っていることは、一目見て分かります。

 


 この間の手のひらをヒラスズキの歯でごしごしにこすられて、大根おろしで傷つけられたかの如き名誉の負傷を繰り返したくないので、父から軍手を借りてきていて正解でした。

 そして、前回のツーショットの記念撮影をルアーマンさんにしてもらった際には、朝日による彼の影がヒラスズキのボディにかかっている写真ばかりで、1枚を除いて全部台無しになってしまったので、今回は落ち着いて、撮影場所を自分で決めて、影が映らない立ち位置に移動して、タモ入れをしてくれたルアーマンさんに、もう一仕事デジカメのシャッター押しを頼みました。

 


 失敗を次に活かすことができると、それは貴重な経験という財産となって、生きてくるものなんですね。

 To be continued(=続く)