先日イギリスを旅行して思うところをまとめてみたのですが（過去ブログ）、そもそもその旅も、観光よりも演劇勉強が第一なわけです。

たくさんの素敵な作品を見させていただきまして、事細かくみなさんにその素晴らしさお伝えしたいところですが、そこはあまりにも私の趣味の押し付けになってしまいますし、なんだか心に留めておきたいわたしもいますので、そういうことにさせてください。

とは言うものの、一つだけみなさんにお伝えしたいことがあります。

つまるところ、日本の演劇との格差です。

シェイクスピアの国だけあって、もちろん日本よりも技術や伝統が作り手に根付いているのもあると思いますが、一番の差はお客さんの差だったように思います。

それはどちらかが上等という話ではなく、明らかに日本の観劇層と違うという話です。

その話を掘り下げる前に、作り手側の差の話をしましょう。

作り手の最大の違いとして思ったのは「作品の質」でした。

ここで言う質は単純な話の面白さや演出の奇抜さや俳優の技術ではありません。

商品としての質です。

例えば、同じスナック菓子が袋によって味付けが全然違ってしまえばそれは「質が低い」といえます。

その意味で、イギリス演劇はいつ・どの回を見てもお客さんにお見せする作品の質がほぼ同じなのです。

これは敢えて言いますが、日本ではこの質が同じである作品は非常に稀です。

よく「初日から千秋楽に向けてどんどん良くなっていく」なんて聞きますよね。

他にも演劇関係者でよく使われる単語である「２落ち」。

「２落ち」というのは、初日はテンションが高く集中力が高いためハイパフォーマンスになることが多いのに対して、２日目は安堵感や前日の良さを繰り返そうとする心が原因で初日より質が低くなってしまう現象です。

こういった具合に、日本では質が一定しない作品が多いのです。

ちなみにですが、そういった意味ではロンドンと違ってブロードウェイも質が一定しない、とアメリカ人の演出家がおっしゃってました。

ただ、それが日本よりかはお客様にバレにくく、その理由はそもそもの技術力が高いからだとも分析していました。

さて、こういった日本の演劇の質（何度も言いますが安定感の話です。）の低さはどこから来るのでしょう、と言えば、明らかに稽古期間の問題です。

日本では本番が１週間から４週間の公演が多いのに対して、ブロードウェイやウエストエンド（ロンドンのブロードウェイのこと）ではむしろ４週間が最低期間となっています。

これは口コミが影響して集客に明らかに繋がるのが４週目からと言われるのに起因しているそうです。

また、俳優自身も日本のように如何にたくさんの作品に出るか、ではなく、「一生に一本の代表作」をたった一本でも作るために舞台に参加するので、これしかないという心意気が多いと言います。

何が言いたいかと申しますと、ステージが多い分、ひとつあたりの作品のギャランティが高く、且つここで勝負という座組になりますので、稽古に当てられる時間が日本の何倍もあるわけです。

ちなみに、日本なんて長くて４週間が多いですからね。

２．５次元舞台などは早い人で１週間、平均すれば２週間なんてザラですからね。

結果として何が起こるかと言えば、もちろん日本と海外の舞台の質の差が起こるわけです。

差と言えば、日本とイギリスの比較において、演出家の実力差は俳優の実力差よりあると言われています。

これに関しては様々な理由がありますが、少なくともこの日本の短い稽古文化も原因の一つです。

というのも稽古の２、３週間でできる作業といえば、どう作品を円滑にしていくか、が関の山です。

そこに真の意味でどんな効果を乗せるべきか、なんてことをする時間なんてどんなベテランでもありません。あるはずがないです。

なので日本の演出家の多くは円滑にする方法だけをやたらと勉強し、それっぽい効果をつけることに特化しがちになっています。

具体的に言えば、演技指導こそが演出家の本分だと考えたり、とにかく見たことのない演出を乗せればいい、と言った具合です。（と言ってもほとんどの演出は日本から出ればどこでも、それこそ韓国で普通にやられているようなものばかりですけどね……。）

話を戻します。

断っておきますが、モノを申したいのではなく、ただ現実の比較として言っています。

だから何かが駄目、とかそういった話ではありません。

公演期間が短い分、制作会社が払える金額には限度がありますしね。

それに今の日本演劇にお客様が入っているということは、変な話、満足していなくとも、お金をペイするという意味では現状の作品の質に満足しているということですから。

同様に作り手も、その金額であるならば、この質で平気！と作品の質に納得だか妥協だかできているわけです。

そうでなかったらお仕事をお断りしていますよね。

いずれにせよ、需要と供給がきちんと一致しているので、何も問題はないのです。

それ以上の話は個人のエゴイズムなので人に堂々というべきことではありません。

ただ、日本とイギリスの演劇には明らかな「差がある」のは事実です。それだけです。

どちらが良いかを判断するのは日本に住む人です。

なんだか作り手の話だけで長くなってしまいましたので、お客さんの話はまた次回にしましょう。

何度も言いますが、否定ではなく、「差」の話をしています。では。

下平

イギリス演劇から見る日本の演劇①