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慶應-ブラウン交換留学日記

慶應義塾大学から米国のブラウン大学に来ている者です。日常を記録していきます。
お問い合わせはkeio.brown2018@gmail.comまで(アットマークは半角に直してください)。

※この記事は2020年11月6日夜に書かれました。

 

こんにちは、おにおんです。

 

ついに今週の火曜日、11月3日にアメリカの大統領選挙日迎えちゃいましたねー。僕は結果が気になって気になって開票作業が始まってからずーーーーっと開票速報のサイトと睨めっこしてて研究関係の仕事に全然集中できませんでした。

この記事を書いている時点ではまだ最終的な勝者が決まっていないけど、民主党のバイデンが優勢っぽいね。

 

なんてトランプ政権のもとことが簡単に運ぶはずもなく、トランプ陣営が「民主党は不正をしている」と騒ぎ立てています。

アメリカでも日本でも、僕の知る限りどのメジャーなニュースアウトレットも「この主張に根拠はない」って報道してるから日本では相手にされないのかなーなんて思ってツイッターを開いたらこれ。

 

詳しく見てみたらなぜか日本人が日本語で「こんな不自然なことが起きている!バイデンが不正している証拠だ!」って色々な画像なり記事なりを投稿していて、そのうちいくつかは知り合いにも拡散されていたり。

トランプの「民主党は不正してる」って発言を真に受けている人が多いのね。

 

 

そこまで言われちゃったらおにおんも気になっちゃいますわ。日本人(に限らずだけど)は何を根拠にしてこの主張を信じているのか。

調べちゃいました。

調べた結果、「根拠」として用いられている事例が証拠能力ゼロのものばっかだったので、ここで情報をまとめてみます。

 

始める前に断っておく必要があるのは、「バイデンとトランプ、どっちの方がいい/どっちに当選してほしい」といった議論は一切するつもりありません。まあ過去の記事読めば僕の立場はすぐわかると思うけど。あくまでも「不正疑惑の検証といった内容で書きます。

なるべくファクトベースな書き方を試みますが、内容が内容だけにトランプに対して批判的な文章になってしまうでしょう。ご了承ください。

 

 

以下の文章ではアメリカの大統領選挙の仕組みの最低限の知識は仮定します。州ごとに選挙人を取り合っているんだーくらい。

 

このブログって留学関係のこと書くために立ち上げたんだけど、いつの間にかアメリカ時事解説ブログになってる…?

 

目次

0.そもそも何が騒がれてるの?

1.トランプが優勢だったのにバイデンが突然逆転するのは不自然?

2.共和党の開票会場への立ち入りが許されていない?

3.ミシガンでバイデンが13万票獲得する間トランプに1票も入らなかった?

4.夜中ウィスコンシンでバイデン票が不自然に増えた?

5.トランプ支持者に配られたペンで記入した票は無効?

6.トランプはなんで不正投票を主張するわけ?

おまけ:おにおんの小言

0. そもそも何が騒がれているの?

一度前提知識の確認。どんな背景で不正説が唱えられているんだっけ。
 
・今年はコロナの影響で、例年と比べて郵便投票、期日前投票の割合が非常に高かったのです。特に、(日本でいう)三密に対する注意や、マスクの呼びかけを行ってきたバイデンは有権者に「郵便投票を利用して」と選挙活動中ずっと呼び掛けていました。それに対し、トランプは「郵便投票は不正の温床だ、USPS(アメリカ合衆国郵便)は信用ならん」と支持者に呼びかけ、郵便投票の信憑性を落とそうと発言してきました。その結果、バイデン支持者の多くは郵便投票を利用したのに対し、トランプ支持者の大半は選挙日当日に投票所で投票したとのことです。トランプはこれを指摘し、「民主党の票は詐欺だ」と言っています。
各候補の支持者の郵便投票等に対する考えの詳しい解説は、例えばこちらこちらを見てください。
 
・さらには、州によって郵便投票の締め切り等の条件が違います。例えばフロリダ州では郵便投票は選挙日の11月3日までに開票会場に届いている必要があるのに対し、ペンシルバニア州では郵便投票は11月3日の消印有効で、11月6日までに開票会場に届けば良いとされています(詳しくはこちら)。トランプは特にペンシルバニア州のように、選挙日以降に届く票が不正だと主張しています。
 
・前述の通り、郵便投票は届くのが遅く、かつ大半がバイデン票であると予想されています(記事作成時点では既に多くの郵便投票が開票されていますが、この予想は正しかった様子です)。このため、選挙日当日に投票された票から先に開票する州では、開票作業の序盤ではトランプが優勢であっても、郵便投票の開票作業が後から進めば進むほどバイデンが追い上げるといったシナリオが見られました。トランプは「選挙日の後に票を変なところから見つけてこられても、それは不正に決まっている」としていて、終いにはまだ勝者が不明の州についても「合法的に投票された票のみを数えれば自分は勝利した」と主張し、更には「率直に言って我々は選挙に勝った」と選挙の勝利宣言をしました(以下の動画参照)。この主張のもと、ペンシルバニア州などまだ勝者が決まっていない州に対して、開票作業を止めるよう、また既に勝者が決まっている州に対しても、後から数えられた票を無効にしようと訴訟を試みています。トランプ支持者も開票会場の前でデモを行って同じ要求をしています。
但し、開票作業を止めろと要求するデモは、トランプが優勢なのにバイデンが追い上げている州でしか行われておらず、トランプが劣勢であるアリゾナ州では「票を数え続けろ」とデモが起きています。
 

↑諸激戦州で逆転された、或いはされつつある様子を確認した後のトランプのスピーチ。動画タイトルに「baselessly claims」(=根拠なく主張)とあるのに注意。

 

↑2通りあるトランプ支持者のデモ。Sharpie云々のくだりについては「5. トランプ支持者に配られたペンで記入した票は無効?」 を参照。

 

基本的にどのニュース番組も新聞も、不正投票があったと示す根拠はない、と報道しています。保守的で、普段トランプがよく見ているとされているFOXニュースでさえこの主張は無根拠な上に危険であると批判的です(以下の動画参照)。

↑FOXニュースで不正投票の主張について議論している動画。

 

また、トランプの主張は民主党だけでなく共和党議員の一部からも「アメリカの民主主義を弱体化させるような発言だ」と批判されています

 

 

さて、ここからはしばらく「不正の証拠」として取り上げられている事柄の幾つかについて説明します。

1. 最初トランプが優勢だったのにバイデンが突然逆転するのは不自然?

これ言う人結構多いですが、もう説明済です。
後から数えられる郵便投票の大半はバイデン支持者によるものなので、最初はバイデンが劣勢でも後から逆転するかもしれない、というのは選挙前から予想されていました。不自然なことはない、というのが殆どの人の見解です。

2. 共和党の開票会場への立ち入りが許されていない?

開票会場には、poll watchers (日本語に訳せば「開票監視人」?)と呼ばれる人たちがいます。彼らは、各党のためのボランティアとして、開票作業に不正がないかどうかをチェックするのが仕事です。名前の通りだね。
さて、共和党のpoll watcherの一人がペンシルバニア州のフィラデルフィア(バイデン派が多い都市)の開票会場へ入ることが拒否されている動画がツイッターでバズりました。

↑poll watcherが開票会場への立ち入りを拒否される様子。

 

これはどうやらpoll watcherのIDに指定されていた会場と、入ろうとしていた会場が異なったことが原因らしいです。本当はIDに書いてある会場以外の会場にも入る権利があるのですが、入場を拒否しているスタッフはこのルールを勘違いしていたらしい(昔のpoll watcherはIDに指定されている会場にしか入れなかったとのこと)。

ちなみにこのpoll watcherはこの後、別の投票会場に無事入場できたと報道されています。そして、このような事件はアメリカ中、あるいは激戦州中で複数発生しているわけではありません。

より詳しくはこちら

 

3. ミシガンでバイデンが13万票獲得する間トランプに1票も入らなかった?

これは、共和党のコンサルタントを務めているらしいMatt Mackowiakが、ミシガン州で一時、バイデン票が12.8万票増えた間にトランプ票が1票も増えていないといったデータに気付き、ツイッターで拡散しました。もちろん「不正投票の証拠だ」としてバズり、おにおんの知り合いまでもが拡散していましたが、これは票の集計時のタイプミスが原因のエラーであることがすぐに確認されました。Mackowiakもこれを認め、元のツイートを削除しました。

↑Mackowiakが元のツイートを削除したと報告するツイート。元のツイートの写真とともに投稿されたので興味ある人は見てみて。

4. 夜中ウィスコンシンでバイデン票が不自然に増えた?

次のグラフを見てください。これはfivethirtyeight.comというサイトが、時間とともにトランプ票、バイデン票の数がどう推移したかを表したものです。4日の6時前にバイデン票が不自然な増え方をしているように見えますね。
↑fivethirtyeightによるウィスコンシンでの票数の推移(https://factcheck.afp.com/wisconsin-vote-surge-was-not-fraudより)
 
これも「不正だ!!」とか言われてまたバズりましたが、これも不正由来の増え方ではなく、ウィスコンシン州の中のいくつかの郡が多数の票の結果を一度に公表しただけです。詳しくはこちら

5. アリゾナのトランプ支持者に配られたペンで記入した票は無効?

これに関しては何故言われ始めたのかが分からない陰謀論レベル。
どうやらアリゾナの投票所では、票の記入のためにアメリカの有名なマジックマーカー「Sharpie」が配布されたらしく、「Sharpieで票を書くと集計されないぞ!」と言う人が出てきたとか。まじでなんで。
アリゾナの職員は「我々の機械はSharpieで書かれた票を認識できる」と名言しています
ただこんな根拠のない主張でも現代のネットの力で「#SharpieGate」といったハッシュタグとともにバズってしまった。はぁ。
 
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大体沢山騒がれている不正投票説のメジャーな「根拠」はこんなものだけど、他にも色々あって全部説明するのは無理、というか書き疲れた。もっと色んな「根拠」について知りたい人はこの記事でも読んで。トランプ票が燃やされた疑惑やバイデン票が開票会場の裏口から搬入された疑惑などについての言及があります。もちろんどの疑惑もデマ、或いは勘違いだと検証済み

暇があって気が向いたらここでも随時更新しようかな。

 

とにかく、バイデン陣営による不正投票の証拠は、全く見つかっていないということです。

CNNやNBCなどのリベラルなニュース局だけが言っているならまだしも、ゴリゴリの右派であるFOXや共和党議員ですら不正の証拠はないって言っているくらいなんだから、証拠がないっていうのが左派プロパガンダではないってことも分かるよね。もし見つかったらFOXが真っ先に報道するから(但しFOXがそれっぽい事案を報道する≠客観的な証拠がある という論理に注意)。

 

6.トランプはなんで不正投票を主張するわけ?

負けた言い訳が欲しい、っていうのが一番単純な解釈ですが、実はもっと合理的な動機であからさまなデマを主張していると指摘されています。
訴訟をすることで選挙で負けても当選する可能性があるから。
 
これは選挙日後のスケジュールがなってくるので以下解説。
 
どうやら、各州が公式に勝者を発表する締め切りは選挙日から5週間までらしいです(今年は12月8日)(今発表されているのはあくまでも各メディアが統計を用いた予想結果)。そして、この結果に基づき選挙人が投票する日が更にその一週間後(12月14日)。
要するに12月8日までに激戦州での勝敗が就かなければ、その州の選挙人の票はバイデンに入らない可能性があります。
その結果両候補が過半数の選挙人を獲得できなかった場合、次期大統領は下院で決定されます。
下院は民主党が過半数の議席を獲得していますが、大統領選出にあたっては各議員1票ではなく、各州1票しか投じることができません。そして、下院で代表されている州の数で優っているのは共和党です。
だからここまで引き伸びたら下院によってトランプが選出される可能性が高いです。
↑開票後のスケジュールとシナリオをまとめた図(https://www.jiji.com/jc/article?k=2020110501090&g=inより)。
 
この可能性に賭けているっていう見方が多いです。激戦州での結果が相当僅差でなければ長く裁判が行われることはない、そもそも訴訟が棄却される可能性が高い、とも言われていますが。
より詳しくはこちら
 

おまけ. おにおんの小言

ここからは愚痴なので興味ない人、不快になりそうな人は読まなくても全く問題ありません。
そして愚痴だから文章も非論理的でまとまりがない。覚悟せよ。
 
なんというか、みんなトランプの言うことを鵜呑みにしすぎじゃない?
 
普段はお互いの発言を否定しかしない保守派とリベラル派が口を揃えて「トランプの主張は事実無根だ」って言っている中、大統領の発言をそのまま信じちゃっている人が多いように見受けます。それでありとあらゆる「証拠」を提示し不正投票があったことをトランプに代わって主張することになると思うのですが、俺がこの記事でまとめたような、「証拠」に対する説明というか検証結果はぐぐれば2分以内で見つかります。調べてくれよ。
まあ偉そうなこと言ってるけどもしかしたら俺も気付かぬうちに怪しい情報源を拡散したことがあるかもしれないですね。気を付けているつもりではいますが、今後ますます徹底しようと思うきっかけとなりました。だから僕のブログで変な内容見つけたら教えてね。
 
あと、発言元が大統領っていう権力ある立場にいる人間だっていうのも影響しているのでしょうか。
例えば「東大生が○○って言ってたから○○は絶対正しい」みたいな言葉をよく聞きがちですが、これは情報の発信元の肩書に甘んじて自分の頭で考えることを放棄した人の発言と思えます。
(これは専門家や職場の先輩の言うことを聞くな、ということではなく、あくまでも自分で調べて分かること、或いは考えるにあたって発信元と立場が対等な場合には他人の言うことだけを聞くのは怠慢だ、ということです。専門家や先輩は知識量や経験量といった観点から「対等な立場」にはないと考えます。もちろんそのような場合でも自分で考えて行動することは大事だと思いますが。)
 
↑大体ね、ウィスコンシンの件で突然票が入ったのがバイデンだけだったらグラフはこうなってるっつーの。これこそ「自分の頭を使えば分かるのに、人の言うことを鵜呑みにしちゃったら見えなくなった」の最たる例でしょ。そもそもこんな分かりやすい不正をするアホがどこに存在するか。ミシガンの件も同様。