水原とほる シャイノベルス 山本タカト ☆☆☆☆
植木職人→ヤクザ→植木職人 × 広域指定暴力団家養子
広域指定暴力団滝川組に借金のかたに養子として引き取られた初乃(受)を
待ち受けていたのは、組長であり、養父である滝川悦造の愛人として
監視される歪んだ愛欲の毎日だった。
男に抱かれ、男の視線に晒される屈辱と恥辱を倦みつつも、
初乃にはほかに選択肢がなかった。
そんなある日、初乃の前に真っ直ぐな目を持つ男・花村(攻)が現れた。
強く惹かれあう二人だったが、運命はふたりに過酷な試練を与えて・・・・。
嗜虐と純愛。精微な愛の物語!!
久々 文学的叙情的BL作品を堪能いたしました!
しばらく、現実の世界にもどってこれないくらいどっぷりはまり込んでしまいました。
「聖なる黒夜」以来かな
この作品だったら、角川さんだったら文芸小説で出版OKででるんじゃないですか。
相変わらず、水原先生は 「人間の業」を書かせたら天下一品ですね。
それに、映像が目に浮かぶような叙情的表現力
~東京駅での追っ手をふりきっての花村と初乃のかけおちのシーンなんか
読んでて心臓が飛び出しそうにハラハラしました
人間くさくて、生生しい人物達
いろいろ表現に規制が少ないハリウッドか耽美が好きなおフランスでぜひ映像化してほしい!
ぜひ この作品はこのコメント読まないで
アマゾンで探してでもぜひ 一読してほしいですね~
こっからネタバレですから!!
お話は実に初乃13才~16年にも及ぶ長いドラマです。
初乃は「女の子にもこんなに楚々として華奢で細く美しいものはそうそういない」と言われるような
儚げな美人さんですが、どうしてどうして攻である花村マサヒロが言うように
「梅の木のようにどんなに枝を落としてもすっくと立って花をさかせる強い子」なんです
まさにその言葉のように初乃にはさまざまな屈辱の試練が与えられます。
まず、13歳のときに借金のかたに実の両親から引き離され
60歳のおじさんの養子という愛人にされます。
本人は病気のため不能だが、道具や縄縛り、言葉などでいたぶり、
さらけだして初乃にとっての屈辱の日々が5年の続きます。
やっとこれで解放されるのかと思いきや、
養父との日々をも越える地獄の日々の幕開け。
それは、自分を憎んでいた養兄、悦司に飼われる日の始まりです。
まだ、30代で眼光鋭く、長身の酷薄な義兄からは
容赦なく体を犯され、痛みと苦しみ、怯えによる支配が始まります。
男と男のプライドのぶつかり合い、弱さ・強さがギラギラに描かれていました。
その上で、組織力強化のため、
初乃の体も自分のコマとして、
多数の男に与え、初乃は多くの男によって汚される役目を負わされます。
その間、本命の花村マサヒロとは庭の手入れにきたときに、ただ一度映画を見に行っただけの仲、
別れてしまった後、初乃を守るために花村は自身も極道に身を落とし、
初乃の前に現れてから、言葉を交わすことも養兄の眼をはばかりつつ、
やきもきとした日々が続きます。
途中、二人の仲がばれ、大阪と東京の離れ離れの生活が始まり、
さらに辛い日々の中、
悦司の不在の日に二人はとうとう
東京駅で待ち合わせして、かけおちをします。
その1分1分、電車の発車時刻と追っ手の操作網をかいくぐり、
再びめぐりあう二人の動きが緊迫感をもって描かれています。
無事 逃げ切った後の二人のかりそめの幸せな日々~
このまま、二人はつつましかな山村での新婚生活を続けられるのか
養父以上の妄執で初乃を囲い込んでいた悦司が本当にあきらめてくれるのか!?
物語は最後までその怒涛の展開を緩めません
読んでて退屈する箇所なんて1センスもないです。
その後の3人に起こる展開を考えると
初乃のマサヒロののどかな新婚生活がいっそう儚げに物語を彩ってくれます。
しかし、ここでポイントは
私はこの物語の中で一番、悦司さんが「おきに入り」だ~
インテリヤクザっていうと
「聖なる黒夜」の韮崎を思い出しますが、
同じだけ冷酷で繊細で
人は強いだけ、悪いだけではない
複雑怪奇なカオスのような魅力的な人物でした。
本人がなかなか、初乃への憎しみと愛の表裏一体に気づかず、
最後の最後の死の1年前になってやっと気づき、
遺書ではじめて初乃に
「愛していた」とぽろっと告白するところなんか
おもわずじーんっとしちゃいました。
そういう不器用な人なんですよね、悦司さんて!
花村マサヒロくんになたいな分かりやすい初乃への献身愛じゃないんだけど
愛するものを奪い、離さない傲慢な愛、
結局嫌っていた父の行為そのままだんだけど
そこが人間のもろさ、弱さなのかなって思って愛しく思えるキャラでした。
初乃もただかよわく、二人の男の間をドッチボールのように回されるだけの
受身なキャラなのではなく、自分の意思、想いをもった
芯の強いただ流されないしなやさな人柄が好感が持てました。
萌えとは違う文芸的な山本タカトさんのイラストさえ
今思えば、この作品の世界そのままだと最後は思えました。
ぜひ おすすめ!!!