15兆円というばく大なムダづかい


4月10日、政府・与党は、過去最大規模・15兆円の補正予算を発表。

その結果、今年度の国債発行額は44兆円に達する見込みです。

(税収総額を、国債発行額が上回る事態になります)

史上最大といわれた小渕内閣の補正予算(98年度)約8兆円の2倍に達する、まさに空前の景気対策。


では、効果はあるのでしょうか?


結論から先に言えば、

・危機をほんの少し「先のばし」にする程度の効果しかない、

・恐慌の初期段階で、ムダに財政出動余力を使い果たす、

・ムダづかいのあげく、消費税引き上げの道を開き、内需主導型経済への転換という進むべき方向に逆行する、

など、戦略なきバラマキ、にすぎません。


現在の世界金融危機の本質を見極めず、

権力維持のためのバラマキを行えば、

そのツケは、すべて国民にかぶせられます。


残念ながら今、世界経済がおかれている現状は、数十兆、数百兆円程度の財政出動で回復するような危機レベルではないのです。



         デリバティブ市場は、500兆円の100倍!


 

 4月2日のG20首脳会議での決議では、各国協調下での500兆円規模の財政出動(2010年末までに)が盛り込まれました。


しかしこれも危機の先延ばしにしかなりません。


破綻に向かっている金融派生商品市場の規模は、この500兆円の100倍以上に達してしまっているのです。


 たとえば次の金融危機の「引き金」になるといわれているCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)。 

これは金融機関が扱う証券や貸し出しに対する保険商品ですが、博打のようなハイリターンをもたらす金融派生商品を買うにあたって、万一のときは保険金が下りるという、博打が博打でなくなる「魔法」のような保険商品でした。

CDSによって、博打が博打でなくなり、ローリスク・ハイリターンという考えられない現実が生まれたのです。

かくしてカネがカネを高速に産み出すという博打市場とCDSは車の両輪さながら、数年間で数倍に膨れ上がりました。


CDSだけで今や5500兆円。 世界の総GDPを軽く超える規模です。


しかし、こんな事が続くはずがありません。

サブプライムローンの連続破綻などむりやり博打経済に引きずり込まれた実経済がほころび始めると、金融派生商品は暴落をはじめ、そんなときに保険金を払う約束のCDSが同時に破綻するという、カネがカネを生む構造が、危機が危機を巨大化する構造に逆回転を始めようとしているのです。


今のところ、米国のAGIグループへの25兆円もの公的資金投入などで、CDSの連鎖爆発はなんとか食い止められている格好です。 けれども、CDS危機の本丸はAIGではありません。

今、世界は次の危機爆発を待っている状態なのです。



           国家破産が次々に広がろうとしてる!



 米国政府も、FRB(米連邦準備制度理事会、米国の中央銀行にあたる)も、無限に公的資金を出し続けることは出来ません。

米国の赤字は相次ぐ財政出動で空前の規模となっており、FRBは、国債を売った資金で、クズ同然になることが見えている債権を買いまくるなど、急激に資産内容を劣化させています。


こんなことを続けていれば早晩ドルは崩壊します。


 国家破産したアイスランドは、つい1年前まで「金融立国」の成功例として注目されていたのです。

しかし、その実態は、ギャンブル的な債権売買にのめりこみ、サブプライム関連債権の暴落で破綻したときには、アイスランド大手3銀行の資産規模は、アイルランドのGDPの9倍にも達していました。

 こうなると徴税権を持つ政府や中央銀行にもなすすべが全くないのです。


 そして、スイスは、大手銀行の資産総額がGDPの7倍。 イギリスも同様です。


 これから、金融破綻が国家破産に即連動するケースが、経済大国・金融大国と目されている国で相次ぐでしょう。

世界は今、こうした空前の世界破綻の序章に立っているのです。



             政局しか考えない「貧困な政治」



 G20で各国協調による積極的財政出動が宣言されましたが、すでにドイツをはじめ、財政出動に消極姿勢・批判を口にする国も出ています。

 ドイツのメルケル首相は、4月1日の記者会見で「早まって財政出動をするのは無意味だ」と不快感をあらわにしています。

 今回の危機の本質をきちんと見抜くならば、財政出動余力を残し、国家破綻や国民の生活破綻に向かわないよう事態を見極めようとするのは当然の選択肢なのです。


 そんな中、日本は米国にGNPの2%(10兆円強)の財政出動を求められ、15兆円の補正予算で応えようとしています。

麻生政権の狙いは何でしょうか?

 政局への主導権奪回です。


つまり、

① 経済危機に対して、責任ある政策を実行しようとしていることを国民にアピールする、

② 民主党の経済政策を取り込み実行してしまうことで、民主党の差別化戦略を打ち消してしまう、

ということです。


(事実、民主党が発表した21兆円の緊急経済対策案は、多かれ少なかれ今回の補正予算に組み込まれてしまい、無意味化してしまいました。 鳩山幹事長は、「われわれが言ってきたことをつまみ食いしている」と怒りを表明しましたが、これはもはや敗軍の将の言辞になってしまっています。)


 はっきり言います。

麻生政権にとって、この補正予算は、15兆円という途方もない額の税金(国民のお金)を使った選挙対策費にすぎないのです。

 だから、危機の深刻さもわからずに、国民が目先喜びそうなことには何でも予算を付けようということになっているのです。



             総選挙も無意味化しようとしている!



 これまで麻生首相は、定額給付金という選挙対策がミエミエのバラマキと、消費税増税路線で国民の失望を買い、

KY(漢字が読めない、空気が読めない、経済が読めない)首相と揶揄されてきました。

安倍・福田と首相の政権投げ出しが続き、政権担当能力の劣化がはっきりした自民党への失望と、景気の急激な悪化に対応できない政府に国民の不満が広り、内閣支持率は10%台まで一気に下降。


 一方、民主党は子育て支援・高速無料化・農家戸別補償など「生活第一」のスローガンや天下り禁止など官僚批判などで国民の期待を集め、政権交代は秒読み段階に入っていました。


 しかし、西松事件をさかいに状況は一変。

 民主党への批判と失望が広がる中、民主党自身が身動きがとれなくなり、

一方麻生政権は、北朝鮮ミサイル問題を国家危機として演出し、さらに経済危機の中でのG20方針、米国からの要請で、史上空前のバラマキ(選挙対策)補正に大義名分がつきました。


実際、麻生内閣の支持率は、3月の17%から、4月3~5日調査結果の24.3%に回復基調に入っています(読売新聞・電話調査)。 

麻生内閣、自民党にとっては、6月解散・総選挙が、政権維持へのわずかなチャンスです。

 (それでも与党の過半数割れは避けられそうにありませんが)


 しかし6月解散も現実には出来ないでしょう。


民主党が補正予算に反対してくれれば、解散の大儀が立ち自民・公明にとってもっとも望ましいでしょうが、民主党にもこの経済危機に対する戦略がまるでなく、つまり反対する論拠がない上に、今解散することを恐れています。

与野党の話し合いで補正を早期に通して解散するというシナリオにも乗ってこないでしょう。


 すると7月は都議選があり、全国から東京に党員を大動員する公明党が反対しているのでできない。

 8月はお盆休みのある真夏なのでできない。

 つまり、任期満了まで解散が延びる可能性が大、ということになります。


 しかし、おそらく9月までには、第2弾の金融危機が勃発します。

 混乱の中でわけのわからない選挙になる可能性が大きくなっています。

自民・民主双方の、この間の政局のための政策・政治が、国民に最悪の結果をもたらそうとしています。

 (つまり、どっちもどっちということです)

結局、自民・民主の大連立という最悪の結果になるかもしれません。



    恐慌の中、

      富を握る者が、富を握り続けるために、 

                    戦争が仕組まれる!



 今、「ニューディール」という言葉がはやっているようです。

 世界が恐慌過程に入る中、約80年ぶりに、かつての甘い幻想が意図的に振りまかれているのです。


 しかし、現実は、

1930年代の世界恐慌において、米国のニューディール政策が景気を回復させることはありませんでした。


 景気を回復させたのは何か?



 戦争です。

 

 結局、第二次世界大戦という「戦争特需」と、

 戦争によってヨーロッパ諸国・日本などの「生産力・供給力を破壊」し、戦後のマーシャルプランなどで「人工的に需要を作り出す」ことでしか、世界大恐慌は回復への道を創ることは出来なかったのです。


 貧困な政治の延長には、戦争への誘惑が待っています。


 富と権力を持つ者の利益のために、

 人々が戦い、殺し、殺される。


 その後に残されるのは「悲劇の記憶」と「二度と繰り返してはならない」という思いだけ。


             何度も! 何度も!


 しかし、貧困な政治の延長には、

      富を握るものの利益を代弁するだけの政治の延長には、

  同じ結果しか待っていません。


 私たちは、「グリーン・ニューディール」という甘い言葉の中の、その中身をきちんと見据えることが必要です。

 そして、米オバマ大統領は、「対話重視」と言い、イラクから撤退方針を出しながら、

 なぜ、アフガニスタンに増派し事を構えようとしているのか、見据えなければならないと思います。


 この危機は大げさでなく産業革命以降の経済・社会・世界のあり方の延長線にあり、

その根本的な見直・組直しが求められているのです。


 新しい構想力を持った、全く新しい政治の力が、国民の中から生まれてこない限り、混乱は悲劇に終わるのではないでしょうか。