若手?中堅?刑事弁護人

若手?中堅?刑事弁護人

若手だと思っていたのに、気が付いてみると、弁護士9年目に入ってしまい、もう、若手と言っていいのかどうか怪しくなってきた弁護士が、刑事弁護に関する話題を中心に思ったことを色々と書いていきます。飽き性なのでいつまで続くか分かりませんが…

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刑法では、「罪刑法定主義」という考え方が取られています。

これは、刑罰を与えるには、罪となるべき事について法律で定めておかなくてはならないという刑法の基本的概念の一つです。

当たり前と思うかもしれませんが、この件について興味深いニュースがありました


事件としては、野球賭博において、お客に、胴元から聞いたハンディキャップを伝えた被告人が、賭博場開帳等図利罪の幇助犯(手伝った人)として起訴されたという事件です


刑法186条第2項は次のように書かれています
「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。」


さて、ここで、重要なのは、「賭博場」って何でしょうか?というところです。
この事件においては、すべて、やり取りは電子メールで行われていました

検察官は、電子メールで構成された電磁的空間が賭博場に当たると主張し、弁護人は電磁的空間は賭博場に当たらないと主張しました。


そして、裁判官の判断ですが、「一定の場所を確保し賭博場を開いたとは認められない」として、電磁的空間は「賭博場」に該当しないとして、賭博場会長等図利罪のほう助の成立は否定しました。
判決文を読んだわけではありませんが、賭博「場」という言葉から、物理的空間であることを要すると判断しているようです。

悪いことをしたんだから、裁いちゃえばいいじゃないと思う方もいるかと思いますが、何がダメなのかを法律でちゃんと定めているにもかかわらず、それに違反したということが刑罰を与える根拠なので、ダメと定められていないものを行ってもそれに刑罰を与えたらいけないというのが罪刑法定主義です


「司法試験って、六法を全部暗記するんでしょ?」ということをいわれることがありますが、暗記する条文なんてごくごく一部です。法律の勉強は、法律の条文の解釈がメインです。
刑法は、刑法の理論についてと、個々の条文の解釈を学びます。



じゃあ、電子メールで野球賭博をやる限りには、賭博場開帳等図利罪にならないから大丈夫だなんて思わないで下さいね
実は、この事件は、常習賭博罪のほう助が認められ、結局有罪判決にはなっています。
あくまで、賭博場開帳等図利罪のほう助にはならなかったというだけです。


今回の事件を受けて、電磁的空間でも賭博場に該当するようにしないと、今後、電子メールを使った賭博が横行することになりかねないと判断され、この条文が改定される可能性はかなり高いと思っています。

また、今回の件は、福岡地裁の裁判官の判断であって、他の裁判官がどう考えるかは別問題です。


今回の件があるから大丈夫だって思ってメールを使った賭博をやらないようにしましょうね

刑法185条
「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」

って、こっちに引っかかるでしょうから



http://mainichi.jp/select/news/20151029k0000m040189000c.html
たまに、私選弁護に比べて国選弁護は質が悪いという話が出ることがあります。

では、実際にはどうでしょうか?


単純な話として、腕がいい人、熱意がある人が弁護人であれば、私選でも国選でも変わりません。
逆に、腕が悪い人、熱意がない人が弁護人であったら、私選でも国選でも変わりません。

少なくとも、私を含め、多くの弁護人は、国選だからといって手抜きをするということはしません。

まぁ、国選報酬については不満を口にしていますけど(笑)


多くの街弁は、私選よりも国選の方が遥かに多いです。
私は、年間15件くらい刑事事件をやっていますけど、私選は1~2件ですかね。


国選事件で手抜きをしていたら、変なクセが付いちゃいますし、そもそも、そんな手抜きをできるほど器用な人間じゃないですしね。



その上で、私選弁護人を選ぶメリットについてですね。


国選弁護人は、事件が発生すると、名簿に従って、法テラスというところが、弁護士に打診をして、受けるという返答があれば(もっとも、原則拒否権はありません)、裁判所が国選弁護人に選任します。
そのため、被疑者や、その関係者が弁護人を選ぶことができません。
つまり、私選弁護人のメリットの一つ目は、自分たちで弁護人を選ぶことが出来るということです。
知人に信頼できる弁護士がいるのであれば、国選では偶然その弁護士が国選弁護人として選ばれる可能性はほとんどないでしょうから、その弁護士にお願いしたいなら私選とする必要があります。


国選弁護人は、被疑者段階なら勾留後から就くことになります。ただ、一部の事件では、国選弁護の対象となっていない事件もあります。
この手の事件や、勾留前に弁護士を付けたいのであれば、私選ということになります。
もっとも、このようなケースでは、当番弁護士という制度があって、弁護士を呼んで、その弁護士に被疑者援助制度という制度を使って依頼すれば、実質的には国選とほとんど変わらない形になります。
一部の刑事弁護専門を名乗る法律事務所のホームページでは、当番弁護の存在を無視したかのような記載がなされていますし、また、ごく一部の事件しか、国選弁護にならないように書いてあるケースもありますが、現在は、大半の事件が被疑者段階の国選弁護の対象となります。
その上で、メリットとしては、逮捕される可能性がそれなりに高い事件について、逮捕前から依頼しておくというのがあります。
この段階では、国選やそれに類する制度で弁護士を付けられませんから。


また、国選では、弁護活動のために必要な接見はしても、それ以上の弁護をするうえでは不要なサービスまではしないという人もいますが、私選だったら行うというのもあります。



刑事弁護を多くやっている弁護士は、やっぱり慣れているという方が多いですし、国選だと、年間1件程度しかやらないという方もいます。
そうすると、刑事事件になれていない方を避けるために、私選をというメリットはあります。
ただ、国選だから一律に質が悪いということはありません。


あとは、刑事事件専門を名乗っても、刑事事件の力がどれだけあるかというのを図るものはありません。

年間1件しかやっていなくても腕がいい弁護人もいます。

結局のところ、確率の話だということでご理解ください
1995年7月22日に、大阪市東住吉区で、火災事件がありました。
この火災により、当時小学校6年生だった女の子が死亡しました。

大阪府警は、火災は、故意に起こされたものであり、保険金目当ての事件だと睨み、9月10日に、母親と、その内縁の夫を「任意同行」し、取調べを行いました。

母親と、内縁の夫によりますと、この「任意同行」の際に、罵声を浴びせられ、威嚇され、さらに、黙秘権などの告知もされず取調べを受けることになりました。
そして、警察は、母親に対し、内縁の夫が自白したと虚偽の事実を告げました。母親は頭が真っ白になり自供書を作成してしまいました。

内縁の夫も、捜査機関からの拷問というべき取調べを受け、自白するに至りました。


裁判で、二人は、自白は拷問されたものであることを主張し、自分たちは無実であると主張しました。

しかし、大阪地裁は、二人の主張を認めず、1999年5月18日に二人に対して無期懲役の判決を出します。二人は、控訴しますが、2004年12月20日大阪高裁は控訴を棄却、最高裁も2006年11月7日に上告を棄却して無期懲役が確定することになりました。


二人は、諦めずに、再審請求を行い、2012年3月7日に再審開始決定をし、同時に刑の執行停止の決定をしましたが、検察はこれに対して、再審開始決定について即時抗告し、刑の執行停止についても抗告し、大阪高裁は、刑の執行停止を取消しました。


これが、東住吉事件という事件です。


本日10月23日午前10時に、大阪高裁が、検察の即時抗告を退け、再審開始決定がなされ、二人の元被告人も釈放されたということです。



この事件は、客観的証拠と矛盾する自白であったにも関わらず、自白したことが重視され、自白の際に拷問というべき取調べが行われたと主張しても認められず、有罪となってしまった事件です。



重大事件であればあるほど、捜査機関は、未解決で終わらせてはならないと考えます。
そのため、犯人だと捜査機関が疑った人に対して、いかに犯人だと認めさせるかが重要だと考えるようになります。
その結果、手荒な手段を採っても、自白させることが正義であると考えることにもなりかねません。

日弁連は、取調べの可視化という運動に力を入れています。
取調べの全課程について、ビデオ録画するように求めています。
自白を重視する裁判であれば、その自白が適切に録られたものでなくてはならないからです。


まだ、取調べの全課程の録画という段階にはほど遠いです。
取調べの問題について、みなさんにもっと知っていただけたらと常々考えています。



捜査機関から、高圧的な取調べを受けた際に、一人で抵抗するのは難しいです。
そのため、弁護人としては、黙秘権があることや、不適切な取調べを受けたら、速やかに弁護人を呼ぶようにアドバイスしています。
東住吉事件が起こったのは20年前ですが、現在においても、捜査機関の取調べが問題となる事件は多くあります。私も、何件も、被疑者の方から、取調べにおける不適切な手法を聞かされ、抗議することもあります。

取調べの全課程の録画がなされると、このような問題も無くなっていくと期待しています
無罪取るのってすごいの?と聞かれますが、すごいです。

では、無罪を取るのが一番いいのかといわれると、必ずしもそうではないです。



えっ?と思われるかもしれませんが、無罪を争うとなると、裁判はある程度長期化することは避けられません。
逮捕されて起訴された事件では、ほとんどのケースにおいて保釈されない限り裁判が終わるまでの間、被告人は、身柄を拘束されます。
それは、非常に大きな負担となります。
以前書いたように、身柄拘束が長期化すると、会社をクビになる可能性もあります。
そもそも、かなり苦痛を伴います。

そのため、無罪よりも、不起訴をとることが重要になります。


ただ、被疑者はやっていないと主張するけど、仮にこれはやっていたとして、被害弁償ができる状況で、被害弁償ができれば不起訴になるという事件で、どう対処するかは、非常に悩ましいところがあると思います。

やっていないものを認めて、早く出てくるのが正しいとは思いません。

ただ、私自身が拘束されているわけではありません。
これが長期化した場合において、私が不利益を受けるわけではありません。

もちろん、否認を通して不起訴になる可能性もあります。


結局、最終的には、被疑者に、決めてもらうことになります。
ただ、事案、否認の内容等をちゃんと考えて、見通しなどをしっかりと話せるようにしておくのがプロとしての役割です
刑事ドラマとかで、弁護人が、被疑者に嘘をつかせるというシーンがありますが、少なくともほとんどすべての弁護人はそんなことはしません。


被疑者が、弁護人に、本当はやったんだけど、どうやって嘘をついたらいいかと聞いてくることがあります。
こんな時には、どうしたらよいでしょうか?

私は、嘘をつくことのリスク、嘘を通し切れるかどうかという可能性なども話したうえで、嘘をつくくらいなら、黙っていたほうがいいということなどを話します。
嘘をつくということは、捜査の妨害をすることにもなりますし、裁判になった時に、非常に心証が悪いです。
そもそも、嘘をつくと、その嘘の矛盾を突かれる危険もあります。
そうであれば、嘘をつくなら、黙っている方がよっぽどマシだと考えています。



被疑者が、弁護人に、やっていないと言っているけど、嘘っぽいなと感じたときは、どうでしょうか?

私は、私から見て、何が嘘っぽいかということを分析して、疑問を率直にぶつけます。
ただ、本当にやっていない可能性ももちろんありますので、信頼関係を損ねないように、疑問をぶつけるということに注意しないといけません。私の場合には、刑事事件を何件もやっていて、裁判官や検察官はこのような点について当然疑問を持つと思うけど、という形で切りだしたりします。
そして、疑問点をどんどん解消して行くことが重要です。

当然、裁判で無罪を争うということも想定しないといけないわけですから、裁判官が無罪を出せるように弁護人のストーリーを信用してもらうためには、疑問点を解消して行くことは不可欠です。

私は、嘘っぽいなと思っていても、その「嘘っぽいな」というのは、所詮、私の勘に過ぎないんだからと思って対応するようにしています。



取り調べが行われている期間は、証拠を見ることが出来ません。
どのような証拠があるかも正確には分かりません。
ただ、この手の事件であれば、このような証拠があるはずというイメージを膨らませて、被疑者に、「逮捕してきたということは、こんな証拠を掴んでいると思う」という話をして、それでも当該事実がないかを質問したりします。

オレオレ詐欺の受け子だと、駅の防犯カメラに映っていることも多いです。
その話をしたうえで、その駅に行ってないかということを聞いたりもします。
その結果、やっぱり否認は無理だから自白するという人もいます。


そんなわけで、全弁護人がということまでは言いませんが、多くの弁護人は、被疑者が否認しているときにおいて、何も疑ったりしない、嘘をつきとおすための知恵を与えたり、一緒に嘘を考えたりということはありません。