「凛とした人たち~People on the globe~」第一回は、カンボジアの孤児院で暮らす23人の子供たちと彼らの”お母さん”楠美和(くすのきみわ)さんです。


(2014年8月12日 プノンペン:左端で笑っているのが美和さん)

美和さんがこのくっくま孤児院のお母さんになろうと決意したのは2010年のこと。それまでもボランティア団体「MAKE THE HEAVEN」の一人として子供支援のための様々なプロジェクトに関わっていました。しかしくっくま孤児院の子供たちと触れ合ううちに「自分が受けた愛情をこの子たちに届けたい」という思いが募り、プノンペンに移住、子供たちとの生活を始めました。

そんな美和さんや子供たちと出会うチャンスが私に訪れたのは去年の夏。子供たちは日本での伝統舞踊公演を数週間後に控え、必死に練習をしているところでした。年長者が奏でる音楽に合わせて十数名の子供たちがそれは器用にリズミカルに手足を動かしていました。そして練習が終わるやいなや、くったくない笑顔で私に駆け寄って来てくれて、その場はこの上ない明るさに包まれました。

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しかし、彼らに笑顔が戻ったのはまだここ何年間かのことです。くっくま孤児院は、現在は「MAKE THE HEAVEN」が支援をする孤児院のひとつですが、もともとは孤児院で育った青年が自分よりも幼い孤児たちを守りたいという一心で運営をしていました。

青年は伝統舞踊の踊り手として子供たちのために必死に稼ぎました。ご飯を食べさせ、学校に通わせ…。しかし当然のことながら彼一人でできることには限界がありました。資金難に陥り、子供たちを路頭に迷わせなければならなくなったのです。その窮地に気づいたのが以前から交流があった「MAKE THE HEAVEN」でした。一緒に子供たちを育てようと2011年1月、共同運営がスタートしました。

前述の日本公演当日、その青年は最後の挨拶でこう述べました。
「あのとき僕たちはわずかな食べ物を分け合うだけで精一杯で、いつもいつもお腹が空いていました。でも今は皆さんのおかげで三食のご飯を食べることができ、こうしていろんな人と出会うことができます」
一字一句メモしていなかったので正確な引用ではありませんが、言葉を詰まらせながら語る彼の姿と横に並んで一生懸命涙を拭う子供たちの姿から、彼らが送っていた日々は私たちの想像を超える辛い環境だったのだと思います。

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(2014年8月31日 東京)

孤児院という存在について、色々な意見や課題があります。カンボジア政府とUNICEFが行った調査(*1)によると、2010年時点で同国の保護施設(*2)で暮らす子供は11,945人。そのうちの大部分の子供たちは父親と母親の両方がいないわけではありません。政府としては親や親類と生活することを推奨しており、保護施設は”最終手段、暫定的な解決策”(*3)であると言っています。
また、子供たちが孤児院に預けられる主たる理由は経済問題であると指摘されていますが、事情は様々です。親が行方不明、病気、死別、あるいは暴力…。

しかし彼らに必要なことは共通しています。それは、愛情を受けて成長できる環境。

美和さんは言います。
「この世の中、誰か一人でも心から愛し応援し信じてくれる人がいれば、どんな時も頑張れると私は思っています。今は、一緒に生活していなくても、いつか生んでくれたお母さんにありがとうが言える子どもに育てたい」

美和さんと23人の天使たち、これからもずっと親子。

美和さんFB写真
(2014年母の日:美和さんより拝借/嶋本郁子さん撮影)


【参考】
(*1) “A STUDY OF ATTITUDES TOWARDS RESIDENTIAL CARE IN CAMBODIA 2011"
http://www.unicef.org/eapro/Study_Attitudes_towards_RC.pdf

(*2) 上記調査の原語 “residential care facilities”

(*3) 上記調査の原語 “a last resort and a temporary solution"

【関連URL】
NPO法人 MAKE THE HEAVEN
http://www.maketheheaven.com

NPO法人 MAKE THE HEAVEN Cambodia project
http://maketheheaven.com/cambodia/index.html