READING HIGHも5周年。その記念作品として上演されたのが「YOUNG WIZARDS」。タイトルでてっきりハリーポッターのような感じを想像していたら、安倍晴明、蘆屋道満と名だたる陰陽師が主役の和物。彼らに絡んでいくのも藤原道長、源頼光、坂田金時とこれまた有名どころ。演者も錚々たるメンバーで期待が膨らむ。



舞台は平安時代。鬼が跳梁跋扈する都で頭を痛めた時の帝が、大陰陽師である賀茂忠行に鬼の一掃を命じる。陰陽師見習いながら、抜きん出た力を持つ晴明(宮野真守)と道満(中村悠一)だが、その才を妬まれ、思うように力を発揮する場を与えられない。そんな彼らを気にかける、鬼殺しの武を持つ頼光(諏訪部順一)と、ひょんなことから彼らと知り合った若き日の道長(津田健次郎)。都に急に増え始めた鬼には、何か裏があるのでは…と探り始める。

鬼は隠(おん)…人の負の心、特に怒りから生まれる。人がいる限り鬼は絶えることがない。その鬼を喰らうことができるのが狐だが、狐は人の心に巣食う鬼を人ごと喰ってしまう。だから、怒り(鬼)で鬼を調伏する陰陽師に、狐は殺せないというのが通説だった。しかし、晴明は襲いかかってきた妖狐を殺せてしまった。なぜ晴明には狐が殺せるのか?晴明は本当に狐の子なのか?道満はなぜ寺から引き取られたのか?

宮中に潜む狐を炙り出し、退治する中で、全ての謎が解き明かされていく。



狐の子と蔑まれながらも、ずば抜けた才能を持つ安倍晴明を演じた宮野真守。今回は終始静かで穏やかな人物。日頃のエンターテイメントな姿とは真逆⁈な役どころだが、この人の柔らかな声は何かを抱えたり、屈折した思いをもつ人物によく似合う。日頃の穏やかで冷静な晴明が道満の策を知って悲鳴のように叫ぶ声も、母と思い出を語らうちに涙の混じる声も胸に迫った。黒の直衣の衣装も、狐の尻尾を思わせるような金髪のエクステもとても似合っていた。

もともと坊主のため陰陽師の中で阻害されていた道満も、中村悠一が演じると一癖あるものの頼れる兄貴になる。斜に構えたような言い方をするくせに、誰よりも晴明を心配し、知恵を回す。子どもの頃の演技も、玉藻前が化けている時の声も流石お手のもの。玉藻前との最後の対決は涙なしには見られなかった。

彼らを見守る大人として存在したのが、酒呑童子を退治したといわれる源頼光。演じたのは諏訪部順一だが、この人はこういう役をさせると本当にカッコいい。毎回この人の演技に泣かされるのだが、今回も部下である金太郎(坂田金時の幼名)との最後でしっかり泣かされてしまった。衣装も弓を射るための小手をつけて、髪を結っていて、雰囲気もばっちりたった。

頼光に最期まで付き従う四天王の生き残りである坂田金時の浪川大輔。明るく優しい、まさに金太郎。明るく快活な声で、頼光を明るく支える金時を好演。この人の、悲しい時に敢えて明るく話す演技にとことん弱いので、今回もしっかり流されてしまった。

藤原家の五男から、中納言、右大臣と上り詰めていく道長を津田健二郎。権力者となっていく途中なので、とても人間らしい道長となっていた。今回はこの人が笑い担当。カッコいいのに、情けない道長を嬉々として演じていた。歌を詠みたくないとグズグスするところが個人的にはツボだった。

晴明の式神である槐と、晴明の幼少期(童子丸)を演じたのは鬼頭明里。いつも怒りっぽい槐と、子どもにしては淡々としている童子丸をきちんと演じ分け。怒りっぽいのは心配してるからというのがとても伝わってきて切なかった。

晴明の母とされる葛の葉と、九尾の狐である玉藻前を演じたのが朴璐美。口は悪いが、必死に人の子を育てようとしている葛の葉と、美しくも妖しく残虐な玉藻前の演じ分けは見事。晴明との思い出語りは涙なしには見られなかった。白の衣装と髪もとてもお似合い。妖しく美しかった。


会場はパシフィコ横浜。大きな会場ということもあるのか、マイク音量はやや大きめに感じた。場内は上演前からずっと雨音が流れていて、岩場のようなセット。シンプルな舞台だが、そこにライト、スモーク、焔の演出が入ることで、さまざまな場所や場面を作り出す。むしろシンプルだからこそ、演者の言葉ひとつで見る側が豊かに想像できるのだろう。まさに朗読劇の本領発揮といったところ。

5周年の第二弾企画もあるらしいので、それもまた楽しみ。