「サピエンス全史 第4部・科学革命」より-アポロ宇宙飛行士と先住民老人の伝説 | S blog  -えすぶろ-

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-人は年をとるから走るのをやめるのではない、走るのをやめるから年をとるのだ- 『BORN TO RUN』より
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1969年7月20日、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面に着陸した。この月探検までの数ヶ月間、アポロ11号の宇宙飛行士たちは、アメリカ西部にある、環境が月に似た辺境の砂漠で訓練を受けた。
その地域には、昔からいくつかのアメリカ先住民のコミュニティがあった。そして、宇宙飛行士たちと先住民のこんな出会いの物語-というよりは伝説-が生まれた。
ある日の訓練中、宇宙飛行士たちはアメリカ先住民の老人と出会った。老人は彼らに、ここで何をしているのか尋ねた。宇宙飛行士たちは、近々月探査の旅に出る探検隊だと答えた。それを聞いた老人はしばらく黙り込み、それから宇宙飛行士に向かって、お願いがあるのだが、と切り出した。
「何でしょう?」と彼らは尋ねた。
「うん、私らの部族の者は月には精霊が棲むと信じている。私らからの大切なメッセージを伝えてもらえないだろうか」と老人は言った。
「どんなメッセージですか?」
老人は部族の言葉で何かを言い、宇宙飛行士たちが正確に暗記するまで、何度も繰り返させた。
「どういう意味があるのですか?」
「ああ、それは言えないな。私らの部族と月の精霊だけが知ることを許された秘密だから」
宇宙飛行士たちは基地に戻ると、その部族の言葉を話せる人を探しに探して、ついに見つけ出し、その秘密のメッセージを訳すよう頼んだ。暗記していた言葉を復唱すると、訳を頼まれた者は腹を抱えて笑い出した。ようやく笑いが収まったとき、宇宙飛行士たちは、どういう意味なのかと尋ねた。彼によれば、宇宙飛行士たちが間違えないように苦心して暗記した一節の意味は次のようなものだった。

この者たちの言うことは一言も信じてはいけません。あなた方の土地を盗むためにやって来たのです
サピエンス全史(下巻)・第4部「科学革命」第15章「科学と帝国の融合」より

 

「サピエンス全史」第4部「科学革命」では16世紀欧州で「無知の発見」により科学革命が起こったとあります。この科学革命以前の世界に暮らしている人々にとって、この世界の重要なことは、既に神によって規定され知らされていると信じられていたが、科学革命とはそれを否定し、

①進んで自分たちは無知であることを認め

②聖域なく観察し数学的ツールを使い包括的学説にまとめ上げ

③その説を使って新たな力=テクノロジーを開発していく

という革命だった。このハラリの「無知を知ることから科学革命は始まった説」は逆説的ですが「目から鱗!」という感じで、とても説得力があります。科学革命前1459年の世界地図にはびっしりと陸地が書き込まれているが、科学革命直後の1525年の世界地図は空白だらけになったという写真の比較も載っていて印象的でした。

この「科学」が「帝国(武力・艦隊)」と融合し、更に「資本(資金力)」のバックアップを得たことで、西欧以外の未知の土地への侵略が始まっていきました。

 

白人の責務を引き受けよ
汝が育てた選り抜きの子孫を送り出せ
息子たちを異郷に赴かせよ
汝の虜囚たちの必要を満たすために
重責を担わせ
うろたえる野蛮な人々---
新たに捕らえた気難しい人々、
半ば悪魔で半ば子供のような人々に
尽くすために

サピエンス全史(下巻)・第4部「科学革命」第15章「科学と帝国の融合」より

こんな何とも傲慢な帝国人の詩も紹介されていますが、この詩に表れている思考回路からも分かるように、欧州の帝国による他国への侵略は、容赦の無い虐殺・略奪・更に労働力確保の為、アフリカで奴隷を捕まえて人身売買する等、正に「悪事の限り」「極悪非道」という話が満載です。

冒頭の笑話は、こういった「科学・帝国・資本の力で侵略し悪事の限りをはたらいた人々」と「侵略され残虐な目に遭った人々」の末裔同士の邂逅であり、会話であることを考えると、ちょっと笑えるような話ではなくなってきますね。

 

但し・・・

・世界人口 1500年5億 現在70億以上 14倍

・生産量 1500年2500億ドル 現在60兆ドル 240倍

・消費カロリー 1500年13兆カロリー 現在1500兆カロリー 115倍

第4部では、こんな数字も提示されていて、科学革命以降の世界はそれまでの人類史と比べ圧倒的短期間に驚くべき発展を遂げることができたという「科学・帝国・資本」による世界侵略の「光」の部分についてもきちんと語られています。