「甘いもの中毒 私たちを蝕む「マイルドドラッグ」の正体」書評 | S blog  -えすぶろ-

S blog  -えすぶろ-

-人は年をとるから走るのをやめるのではない、走るのをやめるから年をとるのだ- 『BORN TO RUN』より
走りながら考える ランニング・読書のブログ

ちょっと前に下記のニュースが流れましたが、東北大の農学研究科の皆さん、「日本の稲作と日本食を守りたいという熱い気持ちは分かるんだけど・・・」と言う感じで、ちょっと失笑してしまった位、無理のある実験結果報告でした。

 

糖質制限が老化促す 東北大、マウスで確認
(2018/3/19 05:00)

東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授らは、糖質を抑えた糖質制限食を食べ続けると、体の老化を促し、健康に影響をもたらす恐れがあることを示した。炭水化物を与えずにマウスを約1年間育てたところ、見た目や学習機能で老化を促進させていた。マウスでの成果とはいえ、適切な糖の摂取の重要性や食生活の見直しなど、昨今の糖質制限ブームに警鐘を鳴らす内容と言えそうだ。
マウスに、脂質、糖質、たんぱく質のバランスが日本食に近い「通常食」と、炭水化物を脂質とたんぱく質に置き換えた「糖質制限食」のどちらかを与え、両群20匹ずつを使って実験した。

 

元々、種子食(米等の穀物含む)がニッチ(主食)のマウスに、穀物を抜いて脂質・タンパク質ばかり与えたら、体がおかしくなるのは当然ですね。その実験結果を肉食(魚介含む)がニッチの人類にそのまま当てはめようとしており、前提条件自体が破たんしている実験だということは、我々素人でもすぐに分かります。このニュースに突っ込みを入れた糖質制限食実践派の方は多かったのではないでしょうか?

ただ、このニュースも裏を返すと、人類も本来のニッチと違う物=糖質を大量に食べ続けると、この「哀れなマウス」のような事が体に起きてくるということを教えてくれています。

 

2018/4/2追記

「東洋経済オンライン」で江部さんが非常に分かり易くこの実験への反論記事を書いてくれました。↓

「糖質制限「老化説」が抱える根本的な大問題 -マウス実験では「ヒトの健康」はわからない」 江部 康二 : 高雄病院理事長 2018年03月31日

 

ということで、この「甘いもの中毒」という本、人類にとって本来のニッチではない「甘いもの」=砂糖・ぶどう糖果糖液糖等の他、ご飯・麺類・パン等の甘くないものも含む糖質には、麻薬・タバコと同じ中毒性があり、その為人類は食べ続けてきたし止め辛いということ、糖質を毎日食べ続けていると体内ではどのような不都合な生理現象が起き、その結果どのような不具合が生じて来るのかということ、そして、この中毒を克服するためにどうすればいいのかということ等、糖質制限についての基本的項目が非常にうまくまとめられていて入門書として最適ではないかと思いました。

更に、老化は主に体内で起こる「酸化=錆び」と「糖化=焦げ」により引き起こされますが、両方とも糖質摂取が大きな要因であること。

糖質制限でガン抑制が期待できること(ガン細胞はミトコンドリアが機能しなくなっているので酸素を使った好気性代謝ができず、脂質・ケトン体が利用できない。酸素を使わずに行う解糖系代謝しか行えず、従って糖質しか利用できない為)。

赤ちゃんの離乳食は人類本来の主食である肉(魚介含む)が良い事。

人類の主なエネルギー源は糖質ではなく、脂質から作られるケトン体であり、糖質制限食で起こるケトン体高値は、危険な状態であるアシドーシスとは全く違う安全な状態であること。

日本ではいまだに糖尿病の主流の治療法は、糖質制限食ではなく、糖質摂取比率を変えずカロリーだけを抑えるカロリー制限食であり、食事で摂った糖質で上がってしまった血糖値をインスリン注射で下げるという「マッチ・ポンプ」(マッチ=自分で火を点け・ポンプ=自分で消す。自分で作った原因を自分で解決し報酬を得るような詐欺的行為の意)だと指摘。

更に日本以外で既に行われているインスリンを使わない安全で新しい糖尿病の治療方法についてと、何故日本ではその治療法が広まらないのか、その「不都合な真実」について等々、広範囲にわたって言及されています。

また、著者は産婦人科医であり、糖尿病妊婦や妊娠糖尿病妊婦の糖質制限食治療実績も豊富で、関連する実例も色々と出てきます。

上記のように、糖質制限食に関する重要トピックが、すっきりとまとめられた中にも網羅されていて、文章もとても読み易い良書でした。

 

・関連本

著者の前著、ケトン体について詳しく書かれたこの本も面白かったです↓

 

糖質の中毒性に関して、脳のA10神経という快感報酬系を刺激する仕組みや何故そのように進化したのかについての壮大な仮説が載っています↓