20代は自分の事で精一杯で、
彼氏ができても続かない。
彼氏のことは好きにはなるし、
別れる度はちゃんと悲しむし、
自分は恋愛体質なんだとも思っていたけど
作家としての活動を頑張った甲斐あって
ほんの少しずつ仕事が充実してくると
わたしは恋愛よりも仕事を優先するようになった。
そうしてるうちに30代に入り、
どんどん出会いはなくなる。
仕事は家が多いから、更に出会いがなくなる。
焦る気持ちも多少はあったけど、
1日を生きること、締め切りに間に合わすことに必死だったわたしは恋愛の事を考える余裕がなかった。
気づけばミニスカートなんてはけない、
何が似合うかもわからない、
化粧がしっくりこない、
白髪増えた!?
などと顔や体型が変わってきて
わたしはちゃんとおばさんになってきてしまった。
若い頃は無条件に自信があったんだなぁと
最近になって思う。
自信なんてないと思ってたけど、
今よりは何倍もあったと思う。
恋愛して、仕事もして、家庭を持って、
なんて思っていたけど
昔から社会で生きづらさを感じてきた自分が、
自分の夢や仕事を見つけて心健やかに生きれている。
それだけで充分。
最近はそう思うようになった。
自分のペースで
仕事をして、暮らしを営んで
それだけで幸せだ。
なんでも手に入れるなんて贅沢すぎる。
この、自分だけの暮らし方を大切に守っていきたい。
…そんな中現れたのはかなり歳下の彼だった。
はっきり言って、嬉しいという気持ちはある。
けど、勘弁してくれという気持ちもある。
相手の感情に飲まれやすいわたしは
流されて傷つく事も多い。
今は心を乱されたくない。
きっと若いってだけで、自信があるのだ。
そんな遊びに付き合ってられっか!
そう思うのだけれど
昨日、駅前のスーパーの自転車置き場で彼を見かけた。
おじさんが自転車を引っ張り出した瞬間、ドミノのように自転車が倒れた。彼の自転車も一緒に倒れ、仕方なく他の自転車を立てている。
おじさんは見て見ぬ振りして去って行った。
あと少しってところでまた倒れた。
それをたまたま見た倒れた自転車の持ち主は彼を睨んで、手伝う事なく自分の自転車だけを拾い上げて帰ってゆく。
その光景をみながら、彼もなんとなく生きづらそうな人間なんだろうなぁと思った。
あまりプライベートで関わるのは避けていたけど、
周りからの痛い視線に私が我慢できなくなって、
気づいたら手伝っていた。
私が現れるとものすごく驚いて、はにかんで、小さな声ですみません、と言った。彼の耳が少し赤くなった。
おばさんは心で悶えた。
自転車を立て終わり、それじゃぁまた教室で、と挨拶すると、アトリエまで送ります、と。
いやいや、自転車で送られても!とズッコケそうになったが、ふと彼の買い物した袋が目に入った。
卵が割れているのがビニール越しでもわかった。
「あ、卵割れてる」と何気なく声に出た。
「あぁ」と恥ずかしそうに彼もビニール越しに覗き込んだ。
わたしは彼が一人暮らしなのをその時知った。
アトリエはスーパーから歩いて10分。
送ってもらう必要なんてなにもない。
だけどこういうのを断る事ができないわたし。
自転車を押す彼の横に並んで歩く。(私の荷物をカゴに乗せて)
話すこともないし気を使う。何やってんだろうか。
突然「趣味はありますか?」と聞かれた。
「ホラー映画鑑賞かな」と男受けしなさそうな返事をした。
「ホラー、、、」
案の定、話は全く弾まない。
「春日井くん(仮名)の趣味は?」
少し間があって
「…俺もホラー観てみます。グーニーズってホラーですか?」
ズコー!と心の中で今度こそずっこけた。
天然なのか?本気なのか?
話も噛み合ってないし
なぜグーニーズ?
ホラー映画なんて無理して見なくてもいいよと諭しているとアトリエに着いた。
彼の卵が割れた買い物袋がなんだか切なくて、
自分のイラストの入ったエコバッグに、
返さなくていいよと言って入れ替えてあげた。
割れた卵を見ているとこれも気になってしまって、
わたしの卵を増やしてあげた。
わたしは自分の行いで自分を満たしているだけなのだろうが、
せかせかと母親のように世話を焼く私を
熱い視線で見ている彼にハッと気づいて
あ、やばいと思ったら時すでに遅し。
「先生が自転車を手伝ってくれたとき、
このまま永遠に倒れてくれたらいいのにって思いました」
やべぇ、
やっぱりこの子やばいわぁ。
自転車永遠に倒れるって何!?
どんな表現!?
彼をこうしてしまったのは、
アトリエが薄暗かったこと、
私がいらぬおせっかいで優しさを振りまいてしまったこと、
まず無駄に送ってもらったこと、など。
全ては自分の責任。
後悔。
ただ、街灯が差し込み
彼のまつ毛の陰影をうっすら映した頬と
長い前髪の向こう側のひかる目
その光景はドキッとさせるものがあった。
口を開けて、半笑いでへ?となった私の顔とは
正反対の光景だっただろうなと思う。
長文駄文で失礼しました。