僕は彼女からカミングアウトを受けた”鬱”についてはさっぱりわからなかった。四六時中塞ぎこんでいるわけではないし・・・

ただ時折自分ではコントロールできないどうにもならない状態に陥るみたいだ。彼女には、別居中の旦那のDV、姑のいじめ、それプラス思春期における実母からの虐待と複雑な要因がからんで病気にかかったみたいだった。

その時の僕は自分の力を過信していたとわかったのは彼女が僕の元を離れて10ヶ月も過ぎた今になってのことだ。僕は自分の愛情を彼女に注げばきっと彼女は治る。と心に信じて疑わなかった。それはリサとの生活が始まってから見る見る元気を取り戻していった、ように見えたから・・・

ちゃんとした旅行に行ったことがないと言っていた彼女をつれていった伊良湖ガーデンホテル。大浴場で話好きな年寄りに捕まってしまって、低温火傷を追ってしまったのをフロントに急いで氷と保湿クリームを用意させて応急手当をしたり・・・

その当時のリサの状態は極端にストレスに弱くて、初対面や、精神的は負担はご法度だった。それは普通の人とはくらべものならないほどにセンシティブでがガラスのようにもろく複雑に崩れる物だった。

特に小さい子供がいるような場所へは最新の注意を払っていた、まだ小さい三人目には引き離されて逢わせてもらえないことが彼女を苦しめていたから。小さい子供を見ると途端に落ちてしまう。

それでも、気分転換に音楽を聴きに行ったり、料理を一緒に作ったりして彼女と極力時間を共にしていたわってやっていこうとしていた。あの日のことが無ければうまくいっていたのかのように・・・

僕は、ハッと冷静に戻った。彼女は僕を必要としている、と強く感じた。リサの元へと戻った。

2003年のまだ初夏に入ったばかりの6月の暑い夜だった。

その後数日間何事もなく、何ともいえない幸せな日々が続いていた。しかし、リサの抱えている問題を知ったのはそれから間もなくのことだった。

リサのお気に入りのキャメロンディアスの『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』を見に行っていた。もうノリノリで帰ってからも興奮冷めやらぬ何とかって感じだった。

そこへ僕の携帯へ一本の電話が入ってきた。あっ思い出て話をしてみた。そんなこんな急展開で連絡をしていなかったのだけど、歌手デビューを目指している沙耶からだった。

本業ではないのだけど、ミュージシャンくずれの僕はプロモーターをやっている知り合いからバックミュージシャンをやってくれと頼まれていた。打ち合わせをし無ければいけないことをすっかりと忘れていた。その催促の電話だった。

適当にあいている日にちを伝えて電話を切るとリサの様子がおかしいことに気がついた。すごく沈んだように、ボーっとしている。なにを話しかけてももういいとしか言わない。また泣き崩れ始めた。もうなにをいっても聞いてくれない。

あとで、知ったのは彼女は重い「鬱」にかかっている事実だった。このことは、大変なこれからの生活にのしかかってくるとは思いもよらなかった。

彼女のマンションへ高速に乗って飛ばした。
それでも一時間はかかる距離だった。

その間にさまざまな不安がよぎりまくっていた。マンションに着くと旦那の車はもう見当たらなかった。

リサに電話してみると、さすがに夜は遅く帰ったみたいだった。彼女はすっかりと疲れきっていた。

今日はずっと一緒にいてあげるよ、と言ったら彼女は嬉しそうに僕を受け入れてくれた。翌朝、彼女は朝ごはんを作ってくれて僕を送り出してくれた。

仕事中もずっと心配だったが、特に何も起らなかった。でも心配が募ってきたので、その夜もリサのマンションへ向かった。彼女も少し困惑していたが、快く受け入れてくれた。

この日をさかえに僕と彼女の2年の生活がスタートした。リサは、料理や家事が得意で最初の数日はまさに新婚生活のようだった。

そうして数日後最初の問題が起った。仕事から彼女のマンションへ帰ってくると、リサは話があると切り出してきた。リサはメールのやり取りでは同い年と言っていたが5歳年上だった。

そして子供は1人だけじゃなく3人いると。年寄りずいぶん若く見えたのでわからなかった。あまりのショックでどうしていいのかわからなくなっていた。

いったん外へ出て実家へ帰ろうとした。車に乗ると、リサからメールが入って謝るからもどってきてほしい・・・と
店を出ると彼女が言った。

旦那がマンションの周りにいるかもしれないからちょっと様子を一緒に見てほしい、と

心配だったので、彼女と一緒にマンションの近くまで行った。

”あっ”と彼女は叫んだ。

白いパジェロが4Fのマンション入り口の前に止まっている。

それは、DVを振るう旦那の車だと彼女は言う。

さっきの元気はどこ吹く風か、彼女は表情は一転してこわばった。

彼女は言った”今日どこか一緒に泊まって欲しい”っと

僕は、考えるまでもなく、彼女と少し離れたI.C近くのホテルに向かった。

少し緊張もほぐれた彼女とその夜は自然に結ばれた。。。


翌朝起きてみてコーヒーメーカーが目に入ったのでで彼女に1杯入れてあげると、彼女はすごく感動して喜んだ。

”なんで”って聞くと、今まで男の人にそんなことされたこと無いっていってた。

コーヒー1杯でこんなに幸せな気持ちになったのは初めてだった。

彼女のよさが自分の気持ちに染みわたっていくのを感じた。
朝、自然にキスをして、仕事へ向かった。その夜は、久しぶりに長電話をした。

会いたい気持ちが一杯になってくると声を聞きたくてたまらなくなってくる。

翌日、会社で仕事を終えて夜倉庫へサンプルをとりに行こうと向かっていると、携帯が鳴った。リサだ。嬉しい気持ちでとってみると、様子がおかしい。すごく怯えていている。

”どうしたの?”って聞くと泣き始めた。彼女の別居中の旦那が玄関まで来て大騒ぎしているらしい。

彼女は旦那のDVを恐れて逃げ出して調停中だった。

これは!と急いで方向転換をして彼女のマンションへ車を走らせた!”いそがなきゃ!彼女を助けなきゃ!”と心に叫んだ。
翌日も、心配だったんで電話してみた。
落ち着いてたから安心して話をしてた。

彼女は80'sの洋楽が好きで、僕と好みが不思議なくらい合ったので、話が尽きなかった。

次の日に、映画を見に行こう約束した。そのときちょうど「マトリックスリローデッド」が公開されていて郊外のシネコンで待ち合わせた。

仕事をそそくさと終わらせて駐車場で待っていると、リサがやってきた。

まだ二回目なのにもう何年も知っているような感覚がした。
並んで歩くのに肩に手をまわそうとしたら、彼女は反射的に身を引いてしまった。

男に対する恐怖心からそうなってしまってみたいだ。

映画見た後は盛り上がって、郊外の少し洒落た、多国籍料理の店に入った。

まあ居酒屋みたいなところだけどの個室でいいムードで話は尽きなかった。

なんだろ、まだ2回目なのにもう何年も前から知っているかのような感覚だった。

バイリンガルの彼女のオーバーな手先の動きと表情はコケティッシュで、あとでわかる彼女の抱えている重大な問題など全く想像もつかなかった。



彼女を守らなきゃ!

なぜかそー思ってしまった。

早朝の中央公園で泣き止まぬ彼女の手を握って”大丈夫だから”とワケも判らず言っていた。

それから彼女と別れたが、ずっと心配していた。

その夜、リサに電話を入れてみた。

彼女は落ち着きを取り戻していた。

”どーしたの?”と直球で聞いてみる。

彼女と親と関係は複雑で、親の異常なほどの貞操観念と・・・

彼女はDVを受けていたということだった・・・

最近よく言う虐待。

自分のアパートに帰ってきたとのことで、延々と5時間くらい電話で話をした。

彼女は信頼のおける助けを必要としている!そう感じずにはいられなかった・・・


”こんばんわ”っと彼女が車から降りてきた。

車は、シャンパン色のトヨタ・ビッツだった。

ぼくも挨拶を返すが、ちょっと動揺していた。

すごく顔の小さい美人だな・・・でもすいぶん大人びているなって同い年だから当たり前か。。。

っといろいろなことが頭のなかを巡っていた。

お互いの素性はメールでしってるから、初対面でも変な感じだ。

話は、結構はずんで仕事、音楽、地元の話と時間を忘れて気がついたらもう5時。

泊まる必要もなく朝が来ていたので店をでた。

なんだったんだろうなと考えながら、まだ彼女は帰りたくなさそうな気配。

なぜかここの駐車場にわ鶏が放し飼いになっている(-_-;)不思議な光景だ。

なんかいい感じなのか?っと期待も少し膨らんでいた。

でももうとっくに夜が明けてたんで、リサは帰る前に、実家に連絡を入れた。

何の気なしに車の横で聞いてると、どうも様子がおかしい。

”どうして私の言うことを信用してくれないの!”っと

親に何かワーワー言われて、リサが泣き出した。

”ハッ”とそのときにどうして泊めてほしいっていった理由がわかった。

リサには家にいられない理由があったのだ。
一ヶ月ほどリサとメールを交わすうちに、なんとなくお互い惹かれるものがあるなと感じられるようになってきた。

僕も前の離婚の苦い経験があるから、そうは簡単には恋愛には飛びつかないようになっていた。

が、仕事から帰ってきてリサのメールを見て癒される自分がいるのは否めなかった。

でも、お互いに電話番号など直接関わる連絡先は教えあってなかった。ただ携帯のメアドは交換していたが。

梅雨時のそんなある土曜日の夜、リサから携帯へメールが入った。

「今日そっちへ、泊めてくれない?」

ドキッとした。

なんて直接的で積極的なアプローチなんだ!と思ったけど、何か理由があるのだろう。

とりあえず、わけも聞かずに家の車庫の二階なら空いてるなと思って、

「エアコン無いけど空いてる部屋はあるよ」とメールを打ち返してみた。

この時僕はまだ三重の実家にいた。彼女は名古屋市の郊外に住んでいたが、今日は実家の三重に帰ってきてるみたいだ。

じゃ待ち合わせしようと、近くのショッピングセンター(PWシティ)の駐車場でということになった。

あわてて、着替えて家を出た。ついてみるとやけに騒がしく、暴走族の溜まり場になっていた!

これは、駄目だと思い電話しようと思ったが番号をしらなかったので、慌ててメールをした。

すぐ近くのドンキー(ファミレス)に替えて待つこと数分で彼女がやってきた。





彼女(ここでは仮名LISAリサとしよう)

なかなかユーモアがあってぼけ突っ込みの感性ももっていて、あきないメールのやり取りで毎日楽しみにしていた。

そんなやり取りの中でリサはまだ離婚が成立してなく、調停中だという。

僕も調停を起こした経験があるから、ついつい話に引き込まれていった。

でもリサの場合は子供がいる。まだ5歳で笑顔が可愛い男の子だった。

そのときリサは自分の語学力を生かして、教育委員会など公立学校へ英会話の講師の仕事をしながら生計を立てていた。

留学の経験は無く、独学で習得してもっと若い頃は通訳などしていたみたいだ。

旦那の方は、地方の大地主の長男ボンボンで横柄なやつで暴力と酷い素行が原因で逃げ出したリサを追い回していたのだった。


そもそも出会いはネット上だった。

YAHOOパーソナル、メジャーな友だち出会い系のお気軽サイト。

初めてメールが来たときは少し驚いたけど、子供と一緒の写真だった。

それもすごい美人で驚いた。

いろいろあるんだろうなと思って最初は気軽に音楽や映画の話でやり取りしていた。

出身がおなじということで気兼ねなしに最初から打ち解けた感じで、本当の友だちとメールしてる感じと違和感が無かった。

趣味が合うってことで珍しくメールは続いた(めんどくさがりなんで大抵のメル友はすぐ終わる)

それとなく子供のこととか、生活のこととか聞いていたが実際はよく判らなかった。

そんなに特別な生活をしてる人がいるなんて考えもしなかったが、子供を育てながら生きてるんだから普通より大変だろうなと思っていた。

別にあってどうこうしようなんて思ってなかったのでいい話相手だと思ってた。

僕が分かっていた事は、彼女は子供がいる。地元が同じ。同じエリアに住んでいる。

それくらいだった。