少し前にも書きましたが、近所の農家のおじいさんが認知症になりました。
その人とは、昔から畑の途中のあぜ道などで、よく会っていました。
そんな時には大きな声で、にこやかに挨拶していたものです。
また、そのおじいさんは無口であまり喋らないのですが、地域の寄り合いなどでお酒を飲むと陽気になって、とても愛嬌のある喋り方をしていたのが印象的でした。
そんなおじいさんが認知症になったと聞いたのは約一ヶ月前。
残念なことだ・・・
そう思っていたら、先日、ばったり会いました。
自分が去年まで耕していた田んぼに座っていたのです。
挨拶しようを思いましたが、その人は私に目もくれずにずっと下を向いていました。
そして、そこにペタンと座り込んで、手で一本一本草をむしっていたのです。
その人が田んぼを使わなくなって、後継の息子は勤め人で農業は一切せず。
そのため、田んぼは耕作放棄地になりかかっていて、草がずいぶん生い茂った状態でした。
田んぼは2~3反ほどで、そんな草の取り方をしてもほとんど無意味。
それでも無心に草をむしり続けるおじいさん・・・
きっと、わずかに残っている農家としての矜持のために、草が放置できなかったのでしょう。
見ていて胸が塞がる思いがして、声をかけることができませんでした。
一時間ほどして、再びそこを通りがかると、もうその人の姿は見えなくなっていました。
そして、その田んぼには、わずかばかりの抜かれた草が片隅で静かに横たわっていました。