ここのところ、お金の話を何度か書いています。

 今回もその流れで、値段の話についてです。

 農産物の価格は、生活必需品の中でも安いと思いませんか?

 なぜ安いのか、そして現在の状況が望ましい状態なのか?というのが今回のテーマです。


 そもそもどうやって物の値段は決まるのでしょう?

 基本的には、需要と供給のバランスで決まりますね。

 需要よりも供給が多いと、安くなります。

 資本主義の市場原理に委ねると、こうなります。

 しかし、経済理論には、自由な市場原理が失敗するケースについて、四つ提示されています。

 一つは、外部不経済というのもあります。

 この、良い例が公害です。

 二つの企業が同じ製品を作るとします。

 片方の企業は産業廃棄物をきちんと処理し、かかるコストを価格に上乗せして売ります。

 もう一つの企業は産業廃棄物をそのまま放置して、価格を安く抑えます。

 その結果、真面目に処理する企業の製品が高くなって売れなくなる、という問題が発生します。

 農業では、外国の農産物と国産品の関係がこれに当たります。

 いくつかの外国では地下水を浪費したり、森林を乱開発したりして、広大な農地や安い労働力を背景に低価格で農産物を供給します。

 これに対して、日本は平地が少なく山が多く、中山間地で高いコストをかけてコメ作りをします。

 価格差で、日本の米は外国産にかないません。

 しかし、このような日本農業は、いわゆる農地の多面的機能を持っています。

 水田で水を貯めてゆっくりと流すことにより、洪水や土砂災害を防ぐこと、生物多様性を守ること、美しい景観を作ること等、様々なメリットがあります。

 これらによる効果は、年間5兆円を超えるとも言われます。

 このコストを農家が負担しているために、米の値段が高くなっていて、輸入品に対抗できないという問題が発生している、とも言えます。
(今年から、多面的機能に対する交付金が出るようですが)


 二つ目のケースは、公共財です。

 例えば警察とか消防とかが該当します。

 これらは、税金を払わない人でも恩恵を受けることができます。

 税金を払わないからといって、その人の家だけ火事が起こっても放っておくことはできません。

 農業で言えば、これも上述の中山間地の棚田が該当するでしょう。

 個人所有ではあっても、一種の公共財とも言えます。

 もし日本の棚田米を食べない人でも、洪水防止の恩恵を受けることができます。


 三番目のケースは情報の非対称性。

 賃貸住宅の家賃などが良い例でしょう。

 あるアパートの部屋で自殺者が出たという情報は、売り手だけが知っています。

 売り手が、その情報を公開しなければ、買い手は知らずに契約してしまうことになります。

 それで、後で幽霊が出てビックリするという。

 このような売り手がはびこると、消費者は売り手が信用できなくなり、本当の優良物件が正当な価格で契約されなくなります。

 これを農業でいうと、品質や作り方の良し悪しがわからない、ということに相当します。

 よく、スーパーで売られている魚沼産コシヒカリは、実際に魚沼地区で生産されているコシヒカリの数倍、流通していると言われます。

 もっと極端になると、産地偽装とか、汚染米の食品用途への転売とかが以前問題になりました。


 最後の四番目のケースは独占企業の存在。

 電力会社とか、電話会社などがこれに当たります。

 一旦投資して電話線や発電所を整えてしまうと、後から新規参入することはほとんど無理。

 これにより、消費者は高い電話料金や電気代を払うことになります。

 農業では、JAという巨大な組合があり、これが自由競争を阻害する要因になっています。

 最初の3つのケース(外部不経済、公共財、情報の非対称性)は、農業が市場経済にそぐわないという例ですが、そのために4番目のJAによって農業を保護する、という図式になっています。

 農家の生活を守るという目的で、農産物価格はある程度高くなっています。

 ですが、農家はそれで儲かっている実感がない割りに消費者は高いと思うという、よくわからない現象が起こっています。



 というわけで、少し強引ではありますが、今の日本農業は市場原理のままに任せていられない要因が満載であることが分かります。

 外国でも、これは似たようなもの。

 従って多くの国で農家に直接支払いしたり、保護主義的な国に政治的圧力をかけたり、有形無形の援助をしています。

 日本も、TPPで今後どうなるか分かりませんが、何らかの保護政策を追加してもいいとは思えます。