だいぶ前に、スマートアグリについて書きました。

 少し復習すると、スマートアグリとは、最新のICT技術を農業に応用して、高度に管理された生産活動を行うものです

 これをもっとも極端なレベルまで押し進めたものが、植物工場となります。

 スマートアグリをビジネスとして成り立つかどうか考えることは重要ですが、そのために極端な例として植物工場で考えてみるのは有効と思われます。

 そこで、今回はこれについてです。



 まずは、前回とも重なりますが、植物工場のメリット、デメリットを簡単にまとめますと

 メリットとしては、環境を完全にコントロールして、植物にとって最適な環境で育てられるので、高い歩留りで安定生産できます。

 外の環境に依存しないので、好きな時期に生産、出荷できます。

 また、病害虫が完全にシャットアウト出来るので、無農薬で高品質な作物が得られます。

 さらに、無農薬でできる上に、肥料分が土壌から河川に流れることもないので、環境上は有利とも主張されています。



 これに対し、デメリットは、何と言ってもコストです。

 その他、生産に人工的なエネルギーを使いすぎるので、環境に悪いと私は思っています。

 また、植物に最適な環境で育てるため、栄養価が低く可能性もあるのでは?と懸念しています。



 以上の点から、最大の問題点であるコストについて考えてみます。

 植物工場でよく生産されているレタスについて、ざっと見積もってみます。

 ボリューム効果を狙って葉物野菜を日産2万株(国内最大級)つくるとします。

 植物工場の導入コストは、この規模であればン10億円くらいでしょうか?

 これに対して、一株120円で売るとすると年間売上は10億円程度になります。

 ランニングコストは、やはり電気代が非常に大きいです。

 収益は計算の仕方でいくらでも変わりますが、売上の10%は欲しいので1億円。

 とすると、投資の回収に10年以上かかることになります。

 で、その間にメンテナンスコストもかかります。

 こうして考えていくと、植物工場で儲けるのはなかなか難しそうです。

 実際に、参入している企業でも、黒字化しているところは必ずしも多くないようです。


 このような事情から考えると、植物工場の野菜もやはり販売単価を上げることが重要となります。

 直売比率を上げるとか、高付加価値製品をつくるとかです。

 植物工場の持つメリットをアピールすることが必要です。

 そのために、お客様のニーズを掴むことが必要となります。

 それで、お客様の持つ植物工場のイメージを知るために、いろんなアンケートが取られています。

 それによると、原発事故以降、安全性のイメージがかなり向上しているようです。

 また、見た目や高級感、環境への配慮という面で優れていると思われています。

 逆に、美味しさや栄養価は劣っていると思われています。


 こういった意識を踏まえたマーケティングが必要ですね。

 すなわち、安全面や環境面での配慮といったところを定量的で分かりやすくアピールすることになります。




 植物工場は、いうまでもなく、生産方法についての技術です。

 しかしながら、現在の日本農業の最大の課題は価格が安すぎることです。

 日本の農産物の品質は高いとされています。

 そういった意味では、植物工場での生産は従来の農業と同じ特徴をさらに強めたものとなっています。

 従来の日本の農業は、設備屋さんが儲かって農業経営者は儲からない、とされてきました。

 植物工場でも、やはりそのような構図が透けて見えてきます。


参考にした本

日本政策金融公庫 AFC forum(AFCフォーラム) 第60巻1号(4月号) 植物工場ビジネスを追う