先週、おいしい野菜とはどんなものか?について考えてみました。

 簡単に復習すると、味は味覚だけでなく匂いや食感、視覚、聴覚、さらには安全性の情報などいろんなことに影響されます。

 ただし、これではちょっと漠然としすぎています。

 そこで、今回は味覚だけに絞ってもう少し細かく述べてみたいと思います。



 前回も書きましたが、味覚は、5つの基本味からなります。

 甘味、塩味、酸味、苦味、うま味です。

 これらは、舌の味覚細胞によって感知されます。

 色んな食べ物の微妙な味加減も、基本的にはこの5つの基本味の組み合わせです。

 辛味や渋みは、味覚でなく舌の痛みとかしびれた感触とか、味覚神細胞以外の感覚で感知されるので、ここでは述べません。

 個々の味覚について述べると、まず甘味は、身体のエネルギーの源となる糖質を食べると感じられる味です。

 私たちの身体に必須な成分なので、食べると美味しいと感じられます。

 また、少し薄めの甘い味は懐かしい気持ちになります。

 母乳で育ったせいかもしれません。

 母乳の成分は脂質とか糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラル等多数の成分から成り立っています。

 この中で、糖質として乳糖を含むのが特徴です。

 砂糖の主成分であるショ糖よりも、甘味の度合いが低いため、控えめな甘さとなります。

 以前、在来種の糖度の低めの小玉スイカを作っていたことがありますが、それを食べた妻は「昔のスイカの懐かしい味がする」と言っていました。

 最近の果物やデザート系の野菜は、糖度の競争に陥りがちですが、こういったほの甘い美味しさを追求してみるのもいいかもしれませんね。



 つぎにうま味。

 うま味は、日本で発見された味覚で、最近になって基本味であることが分かりました。

 うま味成分としては、グルタミン酸ナトリウムが有名です。

 実は、グルタミン酸も母乳成分の中に多く含まれています。

 栄養的に言えば核酸成分に相当し、タンパク質が多く含まれている食品だとおいしく感じられるようにできています。

 野菜では、豆類やかんぴょう、ニンニク等に多く含まれています。

 農業で応用するとしてもあまり考えつきませんが、強いて言えば、発酵による加工食品でこれを利用できるかもしれませんね。


 塩味は、血圧を調整するのに大切な成分なので、やはり口にすると美味しいと感じられます。

 しかし、味に対する最適値が狭いのも特徴です。

 甘さについては、少なくても多くてもそれなりに美味しく感じられますが、塩味は少なすぎるとぼけた味になり、濃すぎるとキツすぎて、とても食べられなくなります。

「微妙な塩加減」とかいう表現はよく使われますが、「微妙な砂糖加減」とは余り言いませんね。



 以上は、美味しく感じられる味ですが、酸味と苦みは基本的にはまずく感じる味です。


 酸味は腐敗とか、未熟果とかを食べたときに感じられる味なので、本来は危険信号です。

 ただし、身体を健康に保つ機能性もあるので、常にまずいと感じられるわけでもありません。

 若い頃は酸味が苦手でも、年齢を重ねると美味しく感じられてきますね。

 あと、疲れた後には美味しく感じられることもあります。

 疲れからの回復にはクエン酸が有用とされており、クエン酸は酸っぱいのです。



 最後に、苦みは毒があると言う信号で、やはり本来はまずいと感じられます。

 ちなみに、舌の細胞膜には、味を検知する受容体と呼ばれるタンパク質がありますが、苦みを検知するタンパク質は数10種類にも及びます。

 これに対して、甘味は1種類だけです。

 つまり、コーヒーのほろ苦さとチョコレートのほろ苦さは別のほろ苦さとして、区別できるわけです。


 人間が生きていく上で、毒のような危険なものには敏感に対応しなければならないためなのでしょうね。


 苦みに付いても、小さいときは嫌いであっても大きくなるに従って好ましく感じられるものも出てきますね。

 苦みの中には、薬理作用があるものを身体が覚えてくるためかもしれませんね。



 この他、カラシ等の辛味や、渋柿等の渋み、油の感触とか金属の味など、いろんな味があります。

 これらについては検知するタンパク質が見つかっていないため、基本味とはされていません。

 しかし、我々が口にするときには、れっきとした一つの特徴的な味と認識されます。

 以上をまとめると、味覚だけで美味しさを表現するのは難しいと言う身も蓋もない結論となってしまいます。

参考にした本

伏木亨 味覚と嗜好のサイエンス 丸善株式会社

中村弘 とことんやさしい味の本 日刊工業社B&T