食欲の秋ですね。

 食べ物の美味しい季節です。

 野菜も、勿論おいしい季節です。

 ところで、おいしいというのは具体的には
どういうことでしょう?

 おいしい農作物を提供するためには、「おいしい」の意味を正確に知らなければ!

 ということで、今回はおいしさがテーマです。



 おいしさを語るのには、まずは味覚について語らねばなりません。

 味覚は、5つの基本となる味からなります。

 甘味、塩味、苦味、酸味、うま味です。

 この中で、うま味は日本人が発見した基本味で、最近になって基本味として認知されました。

 味はこの5つの基本味の組み合わせですが、無論それだけで決まる訳ではありません。

 トウガラシなどの辛味は、味覚でなく痛覚が刺激されて一つの味と認識されます。

 渋いとか、熱い、冷たいという感覚、ツブツブ感といった食感も、味を構成する重要な要素の一つです。


 これらとともに、忘れてならないのは嗅覚です。

 レトロネイザル嗅覚というのがあります。

 食べ物を口に入れた時に、口の中にあった空気が押し出されて喉から鼻に抜けて匂いを感知します。

 この匂いは通常のクンクン嗅ぐにおいとは別物として、知覚されます。

 そして、味を決める影の主役となっています。

 もちろん、普通にクンクン嗅ぐにおいも美味しさの重要な要件です。

 また、見た目や音も重要です。

 しなしなのポテトチップでも、ヘッドフォンで「パリッ」という音を聞きながら食べると実際にパリッと感じられます。

 白ワインに赤い着色料をたらすと赤ワインの味に感じられます。


 こうして見ると、美味しさとは味覚だけでなく、五感全てで総合的に感じられるものであることが分かります。



 これらを踏まえて、美味しいというのはどんなことなのか、考えて見ましょう

 まず、食べ物を美味しいと感じるのにはいくつかの要素があります。

 一つは、生命を維持するための栄養分を得るという本来目的を満たさなければなりません。

 身体が欲しているものが美味しいと感じる、とよく言いますね。

 例えば、甘いものは美味しいと感じることが多いです。

 糖分は生命活動をするための基本エネルギーとなるからです。

 逆に、苦いものはまずいと感じることが多いです。

 毒物は、一般にアルカリ性のものが多く、アルカリ性の物質はにがいためです。

 この要件を野菜に応用するとすれば、月並みですが健康に育った野菜がおいしいということになりますね。

 健康に育った野菜は、栄養価が高く含まれています。

 逆に病害虫に侵された野菜は、身を守るためにファイトアレキシンという抗菌物質を出します。

 これは、いわば毒なので、まずいと感じることになります。

 よく日本の野菜は見た目にこだわりすぎると言いますが、こういったこともあるのである程度は合理的かもしれません。

 鮮度の高さも、美味しさの一つの要因となります。

 野菜は収穫後も呼吸をしていて、呼吸により自分が蓄えていた栄養分を消費するためです。

 時間とともに栄養分が失われていき、それとともに味も落ちていきます。



 ただし、単純に甘ければ美味しい、苦ければまずいと一意的に決まるわけではありません。

 小さい子供ならだいたいそうかもしれませんが、大人になるに従って変わってきます。

 ビールとかコーヒーとか、苦いものでも美味しいと感じるものは色々ありますね。

 これは、教育による美味しさの獲得と思われます。

 子供の頃はコーヒーがまずかったのが、大人達が美味しそうに飲むのを見て、段々好きになってきます。

 納豆とかくさやの干物とかの発酵食品も、初めて見る人にはとても食べる気がしないでしょう。

 繰り返し食べることで、実は安全で栄養のある食べ物と認識し、安心して食べることにより美味しさを感じます。
 

 これを農作物に応用するとすれば、あまり珍しい野菜を作ってもそんなに受けは良くないかもしれませんね。

 昔ながらの野菜とかであれば、いけるかもしれません。

 今は珍しい野菜であっても、おばあちゃんとかご家族が喜んで食べているのを見ると学習されるかもしれませんし。


 しかし、それでは今まで家族も食べたことのないような珍しい野菜は絶対にダメか?というとそうでもありません。

 情報による美味しさ、というのも侮れません。

 行列のできる店に入ると、それだけで美味しく感じます。

 あとは、価格が高いものとか。

 安全についての情報も重要です。

 自然農法で作ったとか、植物工場で病害虫のいない状態で作ったとか。

 こういった情報によって、美味しさが変わってくるというのも不思議ではありますね。

 このような点から、作る側としては、やはりアピールすることが必要ということよくわかります。


参考にした本


伏木亨 味覚と嗜好のサイエンス 丸善株式会社