世の中、新しい技術色々出てきています。

 農業においてもそうです。

 今回は、その中でも今もっともホットな話題として注目の、スマートアグリについてです。

 スマートアグリとは、一言で言えば最新のICT技術を農業に応用して、高度に管理された生産活動を行うものです。

 余談ながら、以前良く用いられたIT(情報技術、Information Technology)という言葉は、より利用技術面での発展に伴い、ICT(情報通信技術、Information and Communication Technology)という言葉に取って変わられつつあります。


 で、スマートアグリですが、似たようなもので植物工場という言葉もあります。

 植物工場というと、ビルの中で人工光を照射して育てるイメージがありますが、必ずしもそんなのばかりではありません。

 個人で導入できるレベルのものもあります。

 どこまでを通常の栽培で、どこまでをスマートアグリ、あるいは植物工場と呼ぶかは曖昧ですが、ICT化には色んなレベルがあります。

 例えば、ハウス栽培に温度計や湿度計、二酸化炭素濃度計等の各種の分析装置が付いたようなもの、

 これに温度や湿度を自動調整するもの、

 さらに水分、養分、二酸化炭素を自動散布するもの

 培土が土ではなく水耕栽培にしたり、根の支持のために石のようなものを使って養液栽培にするもの

 人工光調整するもの

等々です。

 太陽光を利用するタイプでは、オランダが世界のトップで、日本でも導入されています。

 完全人工光型の植物工場は日本がもっとも進んでいます。


 このようなスマートアグリでは、農作業も旧来のものとは随分変わってきます。

 カメラでハウス栽培の生育を監視して、灌水や施肥をします。

 作物に取っての理想の温度履歴を設定すると、ハウス内に取り付けられた温度計や加熱装置を元に、その温度履歴にぴたりと合うように制御されます。

 温度や湿度他の環境条件を、スマホでいつでもどこでも確認し、更に遠隔操作でハウスの条件を管理します。

 このように、スマートアグリというと、施設栽培で主に行われていると思いがちですが、稲作のように広い面積で露地で行う営農でも徐々にスマートアグリが広がってきています。

 トラクタやヘリコプターにGPS機能を連動させて無人で耕耘したりヘリコプターから肥料や農薬を投入する装置が開発されています。

 また、これらの農機にセンサーを取り付けて、その情報を採取してコンピューターに取り込み、生育状況をチェックできるようになっています。

 衛星画像から、作物栽培の生育状況や害虫の発生状況を解析し、農家の栽培管理に役立てるという取り組みも行われています。



 以上のように、大きな可能性を秘めたスマートアグリですが、もちろん課題もあります。

 最大の課題はコスト。

 農産物は安いので設備費に見合わない場合が多いです。

 今は葉物野菜とかトマトとか、比較的単価の高いものでの栽培例が多いですが、それらでも収益を上げるのは容易ではありません。

 台風、洪水などの自然災害リスクも気になります。

 これらの自然災害は、普通のハウスでもリスクになることには変わりありませんが、設備が余分についている分、壊れる可能性とそのときの被害が大きくなります。


 また、意外なことに、スマートアグリ化すれば野菜の生育については万全という訳でもなさそうです。

 どんなに高度に制御していても、やはり管理する人によって品質に差が生じるそうです。


 あまり指摘されていませんが、個人的には栄養価もやや心配な気がします。

 というのは、昔の野菜に比べ、今の多肥栽培の野菜は栄養価が低いことがよく知られていますね。

 スマートアグリで植物がますます育ちやすい環境を作ると、もっと低くなるのでは?と個人的な疑問です。




 以上、まとめてみると、導入するに際しては、コストや自然災害リスクを考えで、十分回収できる範囲内で投資を行うことが重要ではないかと思います。

 また、人工光や加温は個人的にはどうかと思います。

 環境負荷が大きいからです。

 農林業は、大気中の二酸化炭素を減らし、太陽光から得たエネルギーで有用な生産品を作る唯一の産業です。

 これを破棄して光まで人工(すなわち石油資源や他のエネルギーを使う)にするのは貴重なエネルギーの浪費に思えます。